ドキドキ

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『ごめん。どうしようもなく、寂しくて、不安で、悲しくて、やりきれなくて、涙が止まらなかった。不安定すぎて、迷惑かけました。酷いことを言ってしまったかも、なんて思って、見直したけど、大丈夫そうだ。はは、しかし、弱ってるな。もう、死んでしまいそうじゃないか』 午前2時、以前のように言葉を重ねた。ちょっと前まで、金曜の夜は朝までこうして過ごしていたのにね。 僕が会社員となり、社会に適応していくにつれ、夜更かしの時間がどんどん減っていったよね。 僕の都合で朝まで繋がり、僕の都合で止めてしまった。僕は今も、自分勝手な、相手の気持ちがわからない人間か。 「終わり」さんには感謝して、謝罪して、ねぇ、あと、どうしたらいい? 『復活できて良かった。でも、一応、聞くね。僕に何かできること、ある?』 『ねーよ』  即答ですか。 『ねーの? 何でもやってあげる気満々だけど』 って、僕が返したのを最後に、再び連絡が途絶えてしまった。 通常、最後は互いに「バイバイ」で閉める。やっぱり、大丈夫じゃない。 午前2時、僕は眠れない夜を過ごしている。 『「終わりさーん」大丈夫? 朝まで起きてるから、いつでもどーぞ』 今、僕にできることって、いつでも繋がる状態にしておくことかなって、思ったんだ。 海外のサッカーの試合を視聴して、夜の不安な時間を過ごす。 午前3時過ぎ、「終わり」さんからのメッセージ。 『お願いがある。ギュッてして。お願い。それだけでいい』 ありえないと思うけど、死んじゃったりしないよねって、不安があったから、メッセージを見て心底ほっとしたんだ。 今から家を出ると、三ノ輪につくころには明るくなるかな。 で、僕は、彼女の希望に、上手く応えられるだろうか。だって、一度だけだ。それだって、抱きしめたわけじゃなくて、抱きしめてもらったわけで。 痛くないように、でも、力強さを感じさせる、ほどよい力加減が必要だ。 『了解、ギュってする。ちゃんとギュってしてみせます』 『感謝。ねぇ、でも私がおばあちゃんでも、男だったとしても、してくれる?』 僕らはリアルで会ったことがない、ネットの世界での知人。でも僕にとって彼女は神様みたいな存在で。 だから、この問いに対しては即答できる。自信をもって。 『おばあちゃんでも、おじいちゃんでも、ギュってする』 『!(^^)! ありがと』 『むしろ、目前で、やっぱり触れてほしくないって、言われたら泣く』 『はは。そんなことは、たぶん、言わない』 『ゴリラみたいな奴が現れても?』 『ゴリラは好き。あの上半身だけで生きてる感じがいい』 『・・・この前の健康診断、172センチ60キロ、ひょろひょろです』 今から車で向かうと言った提案は却下された。 100分ぐらいかかる旨を告げた時に、その空白の時間が、耐えられないって。日が昇るまでは、ずっとこうして、言葉で繋がっていたいって。 そして本日、日曜日、朝9時、上野の駅にて待ち合わせの約束。 だから、あと5時間後に僕たちは初めて、顔を合わせ、リアルで言葉を交わすわけだ。徹夜あけ、互いに目の下とかヤバそうな気がするけれど。 『朝が待ち遠しいって、いいね、生まれて初めて』 『本当?』 「終わり」さんのカミングアウトに驚きだ。 確かに、ちょっと前の僕らにとって、朝はサヨナラの時間で、望むものではなかったけどさ。 『人ごみとか、満員電車が好きじゃないからね』 『そう言われると、僕も朝が嬉しいのは久々、小学生の時以来かも。ドキドキしてます』 『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ』 え? なに? 何か気分を害するようなことした? 『嘘つき! ちょっと前に、すっごいドキドキしてただろ』 え? ・・・・(*_*; あ、アレね。あの件。うーん、僕は何て返したらいい? だって、ドキドキの種類が違う。アレとコレは違うでしょ。 いや、本当に、9時を迎えるのが待ち遠しくて、あなたに会えるのが嬉しくて、仕方ないのに。                              END
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