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「医者かな。医者になりたかった」
これは本当。
「過去形なんだ?」
「いまさら医者なんて目指せねえよ」
途中までは本気で勉強していたさ。
知識もそれなりにある。
だが努力だけじゃ、夢を見るだけじゃ、どうにもならなかった。
現実は残酷だ。
「まだ若いのに?」
「若いのはお互い様だろ。レイの夢は?」
「ライがお医者さんになることかな」
妙なことを言う。
レイが続ける。
「でもね、お医者さんは『なる』のがゴールじゃないんだよ。患者さんを救うのが目的なんだからね」
「作家みたいなもんか。デビューがゴールじゃない、みたいな。てかよ、なんで俺の夢がお前の夢なんだよ」
照れ隠しと言葉の真意を確かめたくてそう訊いた。
「ライの夢が叶うことが私の夢だから」
なんだそりゃ。
「天使かよ笑」
思わず口にでた。
「天使だったら、天国に行けるかな?」
バカみたいな軽口だったのに、返事は軽くなかった。
「わりぃ、それは面白くねえよ」
それからしばらく返事がない。
怒らせたか?
「私さ、病気なんだ」
ちょうど足を止めたのは、いつかの歩道橋の上だった。彼方に日が落ちて、街を紅く染めていく。
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