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レイから病名を聞かされた時は、本当に驚いた。
まさか俺と同じ病気だったなんて、本当に知らなかった。
「どうしたボウズ。長生きしたくなったか?」
「そうじゃない。生かしたい人がいるんだよ」
この病院にいるであろう、レイの病室と名前を告げる。
カルテを手に、先生が頷く。
「……確かにこの後、手術だがな」
「俺の使える部分を使ってもらって構わない。この子を、助けてやってくれよ」
スマホの電子データを差し出す。
「ドナーカードか。まあ、そりゃできなくはねえが」
「俺の彼女なんだ。頼むよ」
「……だがな、彼女の血液型は」
「俺と同じ、AB型rhだ」
多くの会話を交わしたわけじゃない。
だが先生は、静かに席を立つ。
了承してくれたらしい。
俺が余命を知ったのは一年前。
前は医師を目指していたから、知識はあった。
難しい病気だって、絶望もした。
手術も考えたが、そもそもAB型rhなんてレア中のレア。適合者がいなかったら、成功は限りなく低い。
悲観しても仕方ない。
残りの人生は好きなことをして過ごそうと思った。
ありとあらゆる娯楽を堪能したが、恋だけはよく分からなかった。
友達としての好き。恋なんて脳の錯覚。
恋が愛に育つ頃には、もうこの世にいねえよ。
そう思ってたんだけどな。
嘘で塗り固めたプロフィール。
別人として生きることで、残りの人生を過ごしてみたかった。
ライは、liar(嘘)の、ライからとった。
「──、本当にいいのか?」
先生が俺の本当の名前を呼んでくれた。
自分のことはよく分かる。俺はもう、長くない。
「ああ。それよりあのコの手術が始まっちまう。頼むぞ、先生」
先生は真剣な顔で、一度だけうなづいた。
「最後に五分だけ、時間をくれないかな」
スマホを掲げてみせる。
「……お別れが終わったら言いな」
先生が集中治療室を出ていった。
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