夜空に咲く花

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 窓の外では花火が上がっていた。  夜空に咲く色とりどりの花。  彼女が目を覚ました時には、手術も花火も終わってるだろう。  君の知る遠い街も現実の君も、一目見たかった。   あなたに、会いたかった。 「来年、一緒に花火を見られるかな」  レイに返せなかった返事の下書きをひらく。 「見られるさ。来年も再来年も、その先もずっと」  本当は書きたかったメッセージを削除する。 「わりぃ。好きな女ができた。別れてくれ。 冬の間、遊べる女が欲しかったんだ。元気でな」  嘘つき男の最後の嘘。  本当はずっとずっと、好きだった。  今でもずっと、大好きだ。  手術に絶対成功の保証はない。  だけど彼女を救うことができたとしたら、そう思うと死ぬのはあまり怖くない。    ああそうか。これがそうか。  恋が育って愛にって、こういうことか。  今はありとあらゆる娯楽がスマホで叶う。  こんな花火ごときで喜ぶヤツはどれくらいいるのだろう。  だけど。  あらためてレイのプロフィール写真をひらく。  花火を見上げるレイの横顔。  その瞬間に惹かれ、話をして、好きになった。  窓を見た。  外では降り積もる雪に反して花火が上がる。  本当に綺麗だ。  どうか。  彼女の手術がうまくいきますように。  どうか、どうか。  俺のことは忘れて、幸せになってほしい。  そしてどうか、どうか。  来年も再来年も、その先もずっと。  打ち上げ花火ごときをキレイだと思う、キミでいてほしい。
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