夜空に咲く花

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 恋には『期限』があると言ったのは、誰だったか。  歩道橋の真ん中で、誰もいない街を見下ろした。  タバコをくわえてスマホを取り出す。   「恋が愛に変わらないのなら、いつか終わるよ」  最後に投げられた言葉が胸をえぐる。  うるせぇ。  恋とか愛とか。  要は脳の錯覚だろ?  彼女と別れた直後に、マッチングアプリで新しい相手を探す。  我ながら最低だが、愛を探すよりは簡単だと思った。  俺のプロフィールは、年齢と顔以外、全部嘘。  名前は『ライ』。  恋を探すのに正直なんて、リスクしかなくね?  検索。女性プロフィールの写真一覧を眺める。 「かわいいな」 「うーん。10歳上か」  タバコの煙と一緒に吐き出される独り言。 「おっ」  気になる写真に目が留まる。  打ち上げ花火を見上げる女性。  白いワンピースに麦わら帽子。  花火を見上げる彼女の顔は、美人というよりかわいい系だ。  なによりその『瞬間』を切り取った構図があまりにキレイで息をのんだ。  レイ、22歳、同い年か。 「これってさ、打ち上げ花火ってやつでしょ?」  挨拶代わりのメッセージ。  返事はすぐ来た。 「ライは打ち上げ花火、知ってるの?」 「見たことある。ネットの、データ保管庫だけどな」  旧世代の文化。夏の風物詩だったらしい。 「今年は本物が上がるんだって」  そういや告知されてたな。  過疎化が進むこの街に、光を届ける。とかなんとか。  レトロっていうんだっけ?  そんな過去の遺産を引っ張り出して、誰が見るんだよ。  いまや仮想現実で、なんでも叶うのにな。  ほぼ全ての娯楽は、スマホで体験できてしまう。 「本物の花火ってどう? レイは見たことあるんだろ?」  会話を続けるために、興味があるフリをする。 「キレイだったよ。空に咲いた花みたいだった」  その表現は、心に響いた。
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