1.没落貴族の俺と、謎の男

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「ユーグくん。多分今日はもうお客さんは来ないだろうから、閉店準備をしようか」  ルーが立ち去ってから、数時間後。空がオレンジ色に染まり始めた頃。奥から店主が顔を見せた。 「わかりました。じゃあ……って、ダメじゃないですか。そんな動いたりしたら」 「いいんだよ。少しくらい身体を動かさないと、鈍るんだから」 「それは完全に治ってから言ってください。はい、奥に引っ込んでくださいね」  片づけを手伝おうとする店長を近くの椅子に座らせて、俺はてきぱきと閉店準備を始めた。  閉店準備とは具体的には、店の外に出している商品の回収だ。その後は店の看板をクローズにして、鍵を閉める。それからは中で小さな作業をしつつ、売り上げのチェックなどを行って終わり。終業になる。 「いやぁ、本当にユーグくんがいてくれて助かるよ。……僕一人だったら、ここまで出来ないしね」  店主のナイムさんが椅子に腰かけたままそう言ってくれる。……だったら、いいんだけれど。 (いろいろとお世話になっているし、少しでも役に立ちたいんだよなぁ……)  そう思いつつ、素早く動いて閉店作業を行う。  俺が働いているのは、ヴィヨン王国の王都にある花屋『ポエミ』だ。ここは元々店主が夫婦で切り盛りしていたものの、五年ほど前にナイムさんの妻が他界した。以来一人で切り盛りしていたナイムさんだけれど、年には勝てずアルバイトを雇うことにしたそうだ。  そして、その求人を見つけたのが俺。そのままの縁で四年半ほど前からここで働かせてもらっている。 「それにしても、あのお客さん、ユーグくんのこと気に入っていらっしゃるんだろうねぇ」  ナイムさんが世間話の一環で、そう言ってくる。なので、俺は苦笑を浮かべた。  彼の言う『あのお客さん』というのはルーのことだろう。むしろ、それ以外考えられない。
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