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(ナイムさんは、ルーと俺の関係を知らないからな……)
まさか、セフレだなんて口が裂けても言えるわけがない。ナイムさん、卒倒しそうだし。
「ははっ、多分、偶然ですよ。なんていうか、花が好きみたいで」
苦笑を浮かべて、ありきたりな理由をでっちあげる。……セックスしたいからここに来ているなんて、悟られるわけにはいかない。
「……ま、悪い人じゃないみたいだし、いいんだけれどね」
「そうですよね」
冷や汗をだらだらと垂らしながら、俺はナイムさんの言葉に返事をしていく。……悟られまい、悟られまい。
(たとえ親兄弟に見放されたとしても、ナイムさんにだけは見放されたくない……)
ナイムさんは、俺の事情を知りつつも雇ってくれている。態度を変えないでくれている貴重な人。幻滅されたくない。見放されたくない。すっかり忘れかけていたその気持ちを、ナイムさんは思い出させてくれた。
「じゃあ、鍵閉めますね」
看板をクローズにして、店の入り口を施錠する。さて、あとは小さな作業と売り上げの計算と記録なんだけれど……。
「あぁ、そうだ。ユーグくん。あとは僕がやっておくから、今日は早く帰ってもいいよ」
ナイムさんが、何の前触れもなくそう言ってきた。俺は、驚いて目を見開く。
「いや、でも……」
「いつもいつも世話になっているからね。少しくらい、僕だってなにかがしたいんだ」
申し訳なさそうにしたナイムさんが、そう呟く。俺は、黙り込むことしか出来なかった。
(見捨てられたくない……)
心の中で、そんな感情が芽生えてむくむくと膨れ上がる。唇をわなわなと震わせていれば、ナイムさんは立ち上がって俺の肩をポンっとたたいてくれた。
「キミに、無理をさせたくないんだ。……たまには、甘えてくれ」
「……ナイムさん」
「キミは働き者だ。だから、たまには休むことを覚えなさい。……さぁ、着替えて帰るといいよ。また明日、よろしくね」
ニコッと笑ったナイムさんは、売り上げの計算に移った。頭の中で、ナイムさんの「また明日」という言葉が反復する。
その言葉を聞くと、なんだか心が落ち着いた。
――また明日。
つまり、最後じゃない。見捨てられたわけじゃない。女々しいとわかっている。わかっているけれど……どうしても、俺はこの考えが捨てられなかった。
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