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ただ一人泣き続ける俺の側で、両親と長兄は話しをしていた。……内容は、今後のお金をどうするかということだった。
そう、このルキエ男爵家に財産などなかった。生活費はすべて次兄が出してくれていた。次兄の稼ぎだけが、この家を支えていたのだ。
「ったく、せめて大金でも遺していけばいいものを……」
長兄が、小さくそう呟いたのがわかった。……許せなかった。
お前の所為で兄さんは死んだんだ。そう言いたかった。なのに、言えなかった。ただ唇をわなわなと震わせて、涙を零すことしか出来なかった。
「そうよね。それに、殺すのならばこの子ではなくユーグにすればよかったのに。そうすれば、私たちに影響なんてなかったのに」
さらには、母のその言葉が俺の胸を抉った。母に視線を向ける。……母は、こんな顔だっただろうか?
「使用人たちには全員暇を出しましょう。そうじゃないと、生活出来ないわ」
「けれど、屋敷のことは誰がするんだ?」
母の言葉に長兄がそう返す。母は、俺のことを見た。
「この出来損ないのユーグに任せればいいでしょう。こういうときくらいにしか、役に立ちそうにないもの」
吐き捨てるように投げつけられた言葉。……ショックもなにも、感じなかった。涙一粒、出なかった。
(兄さん……)
兄さんが、生きていてくれたら。きっと、俺を庇ってくれた。だけど、もう兄さんはいない。
……俺の頭を優しく撫でてくれた兄さんは、もうこの世にいない。
あれから三年後。ルキエ男爵家は財政難で没落した。別に悲しくなんてなかった。むしろ、清々した。
両親も長兄も、俺のことを痛めつけるばかりだったから。役に立たないのならば捨てる。何度も何度も脅すようにそう言われた。けれど、俺はどうしてかこの家に縋っていた。
――いつかは愛してくれる。俺のことをしっかりと見てくれる。
淡い期待をしては、裏切られて。壊されて。気が付いたら、なににも期待しない男になった。
ただ、頭の中の根本には『見捨てられたくない』という気持ちがあった。そう、つまり、俺は――大層面倒な男に育ってしまったのだ。
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