序章

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 「適当に花を一本」の言葉は『お前の家で待ってていいか』という問いかけ。  俺が桃色のバラを差し出すのは了承の意味。都合が悪いときは白色のバラを差し出すことになっている。 「じゃあな」  アイツは桃色のバラと引き換えとして、代金を俺に渡して立ち去った。  男の後ろ姿を眺めていると、俺はいつも同じことを思う。  ――恐ろしいほどに、美しい歩き方の男だ、と。 (ルーは、一体なにを考えているんだろう)  あの男は俺に本名を教えてくれることはない。代わりとばかりに「ルーと呼べ」と命じてきた。  だから、俺は今日もアイツを「ルー」と呼ぶ。 (今夜は退屈せずに済みそうだ)  ひっそりとつぶやいて、俺は仕事に戻ることにした。

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