知らない人

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                    「祥吾(しょうご)、大変!!」  幼馴染の津村菜月(つむらなつき)が高校の食堂で僕を見つけるなり、叫んだ。  何が大変なんだか。今しがた、日替わり定食を手にして、トレーを空いている席に置いたところだ。これから食べよう、というところを幼馴染であっても邪魔しないでほしい。  今日は文化祭。クラスの出し物の当番と、クラブの当番の合間をぬって友人の裕也(ゆうや)と昼飯を食べようとしていた。  文化祭ではない平日は、殺人的な込み具合で、とてもじゃないが食堂に行けない。だからいつもは、母ちゃんが作った弁当だ。が、文化祭の今日は、みんな各々の時間に食べる。そんなに混んでいない。この機会を逃してなるものか。 「せっかくの文化祭やのに。普通、お店をしているクラスのとこで食べへん?」  と、先刻菜月は言って、校舎に戻ったんじゃなかったのか。  どうぞ、どうぞ、お店をしているクラスに行ってください。菜月みたいに、お店をしているクラスのとこに行く生徒が、増えれば増えるだけ、食堂が空く。そう考える僕のことを、 「祥吾って、つまんないね」  と、意見したのは、どこのどいつや? 「ちょっと、来て!」  僕の腕を掴むなり、引っ張って行こうとする。 「いや、まだ食ってないんやけど」 「ご飯なんてあと、あと」  そんな、酷い。僕は裕也に叫んだ。 「あとで、絶対に食うから、僕の定食、見といてくれ!」  食堂にいる生徒全員に笑われたって構わない。困惑顔の祥吾を残し、菜月にぴっぱられていった。
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