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「戻ってきてくれて、ありがとうね」
母の言葉のはずなのに、父が言ったみたいだった。もう父の声も忘れかけていたはずなのに、鼻の奥がグッと詰まる。
愛していても、愛し方を知らないことに、もっと早くに気づけたら。父にも、祐介にも、私の心にも、もっと向き合えていたら、ちゃんと大切にできただろうか。
「会いたい」
乾いた口から出たのは、そんな呟きだった。母が鼻をすする音がした。
「大好きだよ。ずっと大好きだよ」
子どもみたいな言葉しか出てこなかった。言うのがあまりにも遅い、愛の告白。口にしてしまうと、父に二度と会えないことも、祐介が私のそばにいないことも、すべて現実なのだと受け入れるしかなかった。
「ごめん、ごめんなさい」
胸の奥につっかえていた、たくさんの後悔が、涙と一緒にあふれ出す。会って、ちゃんと話をしたい。私の思いを、彼らの思いを、きちんと交わしたい。でも、その機会は、きっと一生来ない。
母が固く私の手を握る。どうか、この後悔が涙と一緒にすべて流れ出してしまいますように。そんなことを願いながら、私は嗚咽をもらし続けた。
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