私と、彼らの話

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 用意した喪服は結局、着なかった。実家に帰ったのは、父の葬儀が終わった3カ月後だったからだ。  地元の駅に立つと、蒸し暑く、でも夏の香りの抜けた風が吹きつけてきた。駐車場に行くと、白いワゴン車が停まっていて、運転席から姉が手を振っていた。 「産後太りが抜けなくってさ」  姉は最後に会った時より、少し太ったようだった。目の下にもうっすらと隈ができている。大学を出た姉は大学の同級生と結婚して、そのまま地元に住み着いて、今は子どもが2人いた。 「お姉ちゃんは会社には戻らないの?」 「下の子が来年、保育園に入ったら戻る。資格も2つ取ったし、準備はできてるからあとはタイミングだけだね」 「すごいね」 「何もせずに戻るわけにはいかないからね」  姉はあっけらかんというと、コンビニで買ったアイスコーヒーを飲み干す。沈黙が続いた。 「……葬儀、出なくてごめん」  それしか言うことができなかった。 「別に。私に謝っても仕方ないでしょ。なんとなく、あんたが葬式に来ないことくらい分かってた」  私は窓越しに変わらない住宅街をぼんやりと見つめる。
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