私と、彼らの話

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 母に案内されて、父の墓石の前にしゃがみ込む。この下に、父がいるとは思えなかった。遺影さえ置かれていない無機質な石を前にして、私は今さら葬儀に出なかったことを後悔していた。母の電話を受け取ったあの日から、ずっと後悔ばかりしている。 「愛香が来る前にお掃除しちゃったから、ゆっくり挨拶していいからね」 「葬儀、出なくてごめん」  父に言ったのか、母に言ったのか、自分でも分からなかった。本当はちゃんと出るつもりだったんだよ。そんな言葉は自分でも情けなさすぎて、結局母には言えなかった。 「いいの。愛香も大変だったでしょうから」  母はそう言って、私に隣に同じようにしゃがむ。最近、腰が痛くて。母は笑った。 「お父さん、私が葬儀に出なかったこと、怒ってるかな」 「まさか。そんなわけないでしょ」 「だって10年も家に顔を出さない、葬儀もほったらかす娘なんて、怒って当たり前じゃん」 「父親っていうのは、娘には何されても甘いの。なんなら、お墓参り来てくれて安心してるくらいじゃない?」 「そうかな」 「そうよ。だって、愛香のことをずっと心配してたもの。食事はちゃんと食べれてるのか。仕事はちゃんとやっていけてるのか。変な男にちょっかい出されていないか、とかね」  変な男、という言葉に、胸がチクリと痛む。祐介の連絡先も写真も、まだスマホの中に消えずに残っている。
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