私と、彼らの話

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「お父さん、ずっとあなたのこと心配してたからね」  知っている。父が私を大学に入れようとしていたのは、私の将来の選択肢が少しでも増えることを望んでいたからだ。食事作法に厳しかったのも、私が箸の持ち方が変だと同級生に笑われた話を聞いて、少しでも私を守ろうとしたからだ。  父の厳しさの底に流れていたのは、いつだって私への愛だ。でも、それを父は私が望むきれいな形で表現できなかったし、私もそれをうまく受け止められなかった。 「お母さんが、電話くれたじゃん」 「うん」 「あの日に実は彼氏に振られて。私が彼のこと、大切にできなかったらから振られたんだ」  あれからの3カ月間、私の心には何も入ってこなかった。今もまだ、現実ではなく夢の中にいるみたいだ。  父と同じように、私もまた祐介を愛していても、彼が望む形で愛してあげられなかった。彼は、私が求めていた形で愛してくれたのに。 「なんで私、大切な人を大切にできないんだろう」  人を愛することと、愛し方を知っていることは別だと気づいた時には、もうこんなに遅れてしまった。 「お父さんの娘だからね」  母はそう言って、私の手を握った。乾燥した手のひらは温かくて、今私がいる場所は夢ではなく、現実なのだと教えてくれた。
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