1/1
前へ
/16ページ
次へ

「あ、あの。僕は……」 「アンヘルさんでしょ。村の人から聞いたよ。ここで毎晩、笛の練習をしてるって。ああ、それ!」 アンヘルの脇においてある笛を指さす。彼は笛を手に取り、カルメンに渡した。 「これは、フラウト・トラヴェルソという木製の横笛で、フルートの原型なんです。フルートより大きいでしょ」 トラヴェルソを吹こうとしたり、構えたりするカルメン。 「あの、カルメンさんてこの村の人じゃないですよね。僕は郵便配達人をしているのでわかります」 「ああ、あたし? そう昨日この村に来たの。ここは、有名な修道院(しゅうどういん)がある観光名所でしょ。あたしは大道芸人(だいどうげいにん)で、大きな街に行く途中なんだけど、その修道院に立ち寄ってみたくなってね。さっき村のバルで飲んでたら、この丘から笛の音がするじゃない。村人に聞いたらあなたの事を教えてくれたの。物悲しいけどホッとするような音に()かれて来てみたの」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加