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会わせ屋。あなたに会いたい人に会わせます。
オフィス街の一角、ふと見上げた先にこんなうたい文句を見つけたのは疲れているせいだろうか。午後五時十五分、仕事帰り。毎日通っているはずの道の上で私は立ち止った。
雑居ビルの三階部分を貸し切っているのか、通りに面した窓全部を使って、黒地に白の文字で描かれている。視認性もイマイチだが、なんというか胡散臭い。入口を探して視線を落とすと、黒いドアには営業中とだけ書かれた小さなプレートだけがぶら下がっていた。
一階部分しか見ていなければ気付きようがない。本当に商売する気があるのか疑う仕様だ。それでも、店は不思議と街に馴染んでいた。オープンしたばかりという気配は感じない。私が気付かなかっただけで、この店はずっと前からここにあったのだろう。
「世の中には、人恋しい人がたくさんいるのね」
思わずため息が漏れた。
社会の荒波に飲まれ続けて十年。アラサーになった私に会いたい人なんかもういない。くたびれた今の姿を学生時代の友人たちに見られたくはないし、初恋の人なんか論外だ。
今流行りの推し活なんてしてる人にはぴったりかもしれないが、こんな小さな店が有名人に会わせてくれる力を持っているとは思えない。適当に言いくるめられて、訴える気が起きないくらいの絶妙な金額を掠め取られるに違いない。
絶対に騙されないぞ。と一つ賢くなったつもりになって、足早に入口の前を通り過ぎる。夕焼け色の風を切る心地良さに口角を上げた時、背後でドアノブが回る音がした。
「ありがとうございました」
低く落ち着いた男の声に振り返ると、四十代半ばくらいの裕福そうな男女がドアの向こうから現れた。
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