会わせ屋~あなたに会いたい人に会わせます~

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 開かれた扉の先に立っていたのは、見知らぬ高齢女性。一月前に仕事で保険の解約の案内を送った女性だった。高齢なせいか通常の案内文では理解して貰えず、必要書類や記入の足りない箇所について何度もやりとりをした。手こずった案件だけに、その名前は記憶に残っている。 「あの時はありがとうございました。私は電話が苦手なものだから、なんどもお手紙を送って貰ったわね。近くに頼れる親戚もいなくて。体調まで気遣っていただいてね。それも解約の手続きだったし、申し訳ないと思っていたのよ。ずっとお礼が言いたかったの」  香芝から説明を受けた彼女は、私の手を取りとてもとてもうれしそうに微笑んでくれた。 「いいえ。私は大したことはしていません。もっと簡単にお手続できればいいのですが、どうしてもご本人にご記入いただく必要がありまして」 「いいのよ。そういう決まりでしょう」  最近は、自分は客なのだからと無理難題を吹っかけてくる人間が多い。仕事を理解してくれる人も、感謝されることもほとんどないというのに。 「あなたに担当して貰えてよかった」  かたい皴々の手のひらに撫でられて、心のとげとげが平らかになっていく。  あなたが会いたいと願っている相手よりも、あなたに会いたいと願っている相手に会う方が心が満たされると思いませんか?  香芝の言っていたことがやっとわかった。  それと同時に、虚しさも襲ってくる。女性に別れを告げた私は、元の待合室と言える部屋に戻り再び香芝と対峙した。
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