望み

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 雪平が私の腕を掴んで引きちぎった。人としてはあり得ない怪力。この血の匂い。そして、今、猫の目のように瞳孔が細くなっている。命の危機や興奮で変化した、紛れもない鬼の血が流れている証。  白狐の子じゃない。  片腕を失ったのに痛みを感じない。ただ、ただ、嬉しい。  会いたかった。会いたかった。会いたかった。  人の血が強いから捨てるしかないと思っていた。でも、きちんと私の血が流れている。  雪平、雪平。  いい名前だ。養い親につけてもらったのか。  私の子だ。私が母だ。お前を捨てた鬼だ。だから、お前には私を殺す権利がある。お前に殺されるのが望みだ。 「焼滅せよ」  唱えた雪平から炎が上がる。その炎が私を包んだ。  人の術。もう、雪平の目は人に戻っている。  雪平は自分に流れる鬼の血に気づいているのだろうか。  何も言わず、私は死んでいこう。雪平の炎に抱かれたまま。  ああ、暖かい。  ああ、もう終わりだ。わかる。黙って逝こうと思ったのに何か声をかけたい。  母も父もなく、それでも、立派な陰陽師になった我が子へ。最後に。  私は目をつぶって呟いた。 「見事」
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