望み

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「お前がこの頃、街を騒がしておる鬼じゃな」  目の前に現れた男は若かった。身にまとった狩衣の色目は朽葉。整った顔は女と見間違いそうだ。結界を張り、油断なくこちらの出方を見ている。  また陰陽師か。私にとって、陰陽師に命を狙われるのは珍しいことのない日常だった。人よりも長く生きて来た鬼女にとって、ただの玩具。必殺と信じて繰り出してくる術を破り、式神を倒し、そして、弄んで殺すだけ。  それでも、この黒森の奥の私の住処まで来るものは少ない。隠形の術をかけてあるので、弱いものは道に迷い、いつまでも森から出られず、死んでいく。それが穢れとなり、魔物も発生し、ますます危険な森となっていく。  その森をどうやって来たのか。この男の衣にも身体にも汚れ一つついていない。 「会いたかったぞ。我こそは賀茂雪平。お前を退治しに来た」  私を退治するために来たとわかっていても、その言葉に心が踊る。私こそ、会いたかった。ずっと、会いたいと思っていた。最近、評判の天才陰陽師。白狐の子とも噂される男。その姿を確かめたいと思っていた。 「お前が賀茂雪平か」  顔をじっと見つめる。額、眉、目、鼻、頬、口、顎。一つ一つ確かめていく。 「いかにも」  そう言って、雪平は印を結び、何か唱えながら、サッと人型の紙を放つ。その紙がふくらみ、人の姿になる。式神、四体。さすがだ。  好敵手と戦える、そんな高揚した気持ちも私の中に生まれてくる。
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