僕はドラゴンになりたい

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 無敵感も無鉄砲さも全部失って空っぽになったのはいつからだろう。中学受験に失敗したときだろうか。それとも旅立つ幼馴染の見送りに行かなかったときだろうか。  “勉強もできるガキ大将”から“ガタイだけはいい凡人”に落ちぶれ、うんざりして学校に行かなくなった。幼稚園の頃に手作りした“何でもお願いを聞く券”を引っ張り出してきて「昔の陸に戻って」と母が泣いても心は動かなかった。  最近、近所でよく“元 ”幼馴染の椿を見かける。椿とは幼稚園の頃から毎日一緒に遊んでいた。彼女は中学受験で九州の全寮制の名門中高一貫校に合格した。僕は不合格だった。椿と離れる寂しさと、情けなさと、涙を見られたくないというちっぽけなプライドが邪魔をして僕は見送りにいかなかった。椿とはそれっきりになっていた。  どうして東京にいるかなんて聞けない。僕も学校に行っていないから。学校で何かあったかなんて聞けるわけがない。何もないならここにいるはずがない。  僕は椿に何もできない。だから、僕は椿に会う資格なんてないのだ。
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