おとうさんがいきました

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「そうかもしれんね」  私が夫の実家で台所仕事をしていると、義母(はは)は私の横に立ち、義父(ちち)の悪口や文句を言い続ける。行く度、ほとんど同じような義父からの仕打ちについての不満、苛立ちの一部始終を聞くことになる。  私はその半分ぐらいでも直接言えばいいのにと思うが、戦中の女子教育のたまものだろうか、夫には逆らわず添う、本心とは反対でも夫には従わざるを得ないらしい。義父は義父で「男尊女卑」を絵に描いたような人で、気に入らないとすぐに怒鳴る。けれども、やさしいところもあるにはある。ただ、それを妻である義母に対してストレートに示さないから、ますますこじれるのである。  義妹(いもうと)も義母の愚痴り相手であり、私とは比較にならないくらい頻繁に聞いてきたはずなのだ。それなのに、やさしい性質の彼女は義母の夢の話にそんな感想を漏らしたのである。夢とは見た人の思考に依るのではないか。とすれば、お義母(かあ)さんはお義父(とう)さんにもう一度あいたいと思っているということになる。夢の中でやさしい言葉をかけてくれたお義父さんにあいたいのではないかと私は思ったが、そうでないのかもしれない。  十代から七十年近く義父と一緒に暮らしてきた義母、その半分ほどの間、夫婦だった私、年期が違うのだろう。夫婦というのはそれぞれさまざま、その思いもさまざまで他人からは計り知れないのが夫婦かもしれない。
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