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おとうさんがいきました
「帰ってきたん?」
私はそう言って夫を見た。その笑顔に違和感がある。この顔は……。
すぐに夢だと気づいて目を覚ました。その笑顔は遺影のそれで、そんな笑顔を私に向けてくれたことなどもう何年、いや何十年もなかったから夢の中だとわかった。それは亡くなってからまだそんなに経っていない頃のことだったと記憶している。
生前、話しかけても生返事、機嫌が悪いと話の途中でいなくなるし、しつこく意見を求めると気が短い夫は語気を強めて話を終わらせた。
夫は私が髪をバッサリと切ろうが全く気づかないし何を着ていようが気にもしない。目を合わせて話したのはいつ頃までだったろう。テレビを見ながら声をあげてよく笑う人ではあったけれども。
あの時、夫に笑顔を向けられ、目覚めた私は苦笑いをするしかなかった。ああ、きっと私も夫に向かって笑顔ではなかったのだと自分を振り返ってみたが、戻ってやり直したいとも思わなかった。
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