10人が本棚に入れています
本棚に追加
***
宮岡は驚いてオムライスの皿から顔を上げた。弟の透太はスプーンを置き、窺うように上目遣いで彼を見ている。
「香世ちゃんって確か、最近透太がずっと気にしていた子だよね?」
「うん……」
透太は小学六年生。宮岡とは十歳以上歳が離れているけれど、幼いながらも正直なしっかり者であり、簡単に嘘を吐いたりはしない子だった。だからこそ、宮岡は耳を疑ったのだ。
「香世ちゃんの家のわんちゃんは、半年前に死んじゃったんだろう。それが生き返ったって言うのかい?」
「だって、香世ちゃんがそう言ってたんだもん」
死んだ生き物が戻ってくることなんてありえない。そんなことを今更言い含める必要はないだろう。
宮岡は困惑した顔で眉を吊り上げ、居心地悪そうに身を捩る弟を見つめた。
佐々木香世は透太と同じクラスの女の子だ。クラブ活動が同じだとかで仲がいいらしく、度々透太の話に出てくる。冬に可愛がっていた愛犬を亡くし、ずっと塞ぎ込んでいた。
それが、ある日を境に突然元気を取り戻したのだという。理由を訊ねると、香世は嬉々としてこう答えた。
「リクが戻ってきてくれたの!」
それから香世はリクとの毎日を楽しげに語るようになったが、しかし、写真を見せてくれと言っても見せてくれない。何かが以前と違っておかしいのだという。
「それになんだか、最近香世ちゃんからヘンな臭いがするんだ。排水溝の臭いって言うのかな……時々ベタベタしたのが髪の毛に付いてるし」
「ふぅむ」
宮岡は考え込んだ。
市役所を通じて正式な要請があった訳ではないけれど、確かに透太の言うことには引っ掛かる。宮岡の過去の経験が、これは怪異事件だと告げていた。
「兄ちゃん……来てくれる?」
「わかった。明日、香世ちゃんに会いに行ってみよう」
最初のコメントを投稿しよう!