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翌日の放課後、宮岡は小学校の校門前で待っていた。
バラバラと下校するランドセルの集団を見送ること二十分。ようやく透太と香世が出てきた。宮岡は「遅かったね」と声を掛けようとして、香世が体操着姿であることに気付く。
「あれ、香世ちゃん――」
ツインテールの小柄な体を見下ろして、足元に目が留まる。香世は靴も履き替えておらず、上履きのままだった。
「兄ちゃん」
宮岡がそのことに触れる前に、透太が小さく首を振る。宮岡はそれだけですべてを察した。
香世の手には濡れた服の入ったビニール袋が握られている。おそらく、クラスでいじめに遭っているのだろう。
もうひとつ、宮岡は香世の周囲に漂う異様な気配に気が付いていた。香世自身が放つものではない。直近で怪異に触れた者特有の、禍々しいニオイ。
「トータくんのお兄さん?」
しかし、香世自身は平常そのものに見えた。宮岡は膝に手をつき、香世に視線を合わせるように身を屈めた。
「そうだよ。こんにちは」
「こんにちは」
受け答えにもおかしな様子はない。宮岡は仕事用の笑顔を顔に貼り付けて言った。
「香世ちゃん、おっきいわんちゃん飼ってるんだって? お兄さんもわんちゃんが大好きなんだ。これから香世ちゃんのおうちに遊びに行って、わんちゃん見せてもらってもいいかな?」
すると香世は困った顔をした。助けを求めるように透太の方を見る。透太も首を傾げた。
「どうしたの?」
「見せてあげたいんですけど……ママがダメって言うかもしれないから……」
「ああ、そうか」
宮岡は安心させるように微笑んだ。
「突然お邪魔するのはよくないかもしれないもんね。それじゃあ一緒におうちに行って、お兄さんからママに頼んでみるよ」
香世はなおも躊躇いがちに、渋々といった様子で頷いた。
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