怪異対策相談室のお仕事 ~白い犬の話~

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 三人で通学路を歩く。道中、香世に飼い犬の話題を差し向けてみると、不安げだった顔が途端に明るくなった。 「リクはとっても賢いの。お手も伏せもできるし、手で輪っかを作って待ってると、鼻を突っ込んでくるんです」 「へぇ。可愛いね」  そう言うと、香世は嬉しそうに照れ笑いをする。本当に愛犬のことが好きなようだ。  香世の家は小学校から少し離れたところにあった。その一軒家が目に入った途端、宮岡は表情を引き締めた。  何の変哲もない二階建ての家。ところが、その庭は大量のゴミ袋で埋め尽くされていた。最近少しずつ暑くなってきたこともあり、沢山のハエが飛び交っているのが見える。そこから漂う悪臭は、道の反対側からでも嗅ぎ取ることができた。 「う……」  透太が思わず鼻を押さえる。宮岡は香世を振り返った。 「リクはおうちの中で飼ってるの?」 「うん」 「散歩は?」 「最近はあんまり行ってません。リク、具合が悪いから」  香世はパタパタと玄関に駆けて行くと、扉を開けながら大声で呼んだ。 「ママー?」  屋内に消えるランドセルを追って、宮岡と透太も玄関ポーチに足を掛ける。  悪臭は一層強烈に、禍々しい気配も濃くなった。それらはむしろ、屋内から流れ出してくるようだった。きちんと揃えられた靴たちが、ゴミだらけの庭先とは対照的だ。  香世が戻ってくるより先に、彼女の母親らしき女性が玄関に現れた。忙しないスリッパの音から察するに、急いで駆け付けて来たのだろう。香世の母はスーツ姿の宮岡を見るなり、眉を顰めて嫌な顔をした。 「なんでしょう。どちらさまですか?」  宮岡は笑顔を浮かべて頭を下げる。 「突然伺ってすみません。宮岡と申します。香世ちゃんには、いつも透太がお世話になっております」  香世の母親は不躾な視線を隠そうともせず、宮岡を上から下まで眺め回した。 「ああ、クラスメイトの……」  透太も倣って頭を下げる。宮岡は早速切り出した。 「わんちゃんを飼ってらっしゃると伺いまして。うちでも飼いたいとせがまれるのですが、うちでは飼うのが難しくて……ぜひ透太に見せてやってもらえないでしょうか?」  咄嗟の出任せだが、ダシに使われた透太も心得たものだ。大人しく上目遣いで香世の母親を見ている。  ところが、用件が飼い犬のことだと聞いた途端、彼女の表情は一変した。
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