怪異対策相談室のお仕事 ~白い犬の話~

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「お断りします。お帰りください」  そう言って扉を閉めようとする。すかさず宮岡は手で押さえた。 「待ってください! ……実は私、こういう者です」  眼前に名刺を突き付ける。  彼女の目が文字を負った。凍り付いた両眼が開いていく。 「吾潟市役所……怪異対策相談室……?」 「はい。お宅のわんちゃんに怪異の疑いがあるということで、確かめさせていただきに参りました」  香世の母親は束の間言葉を発さなかった。背後に控える香世をキッと睨みつけて。 「……お帰りください。うちには普通の犬しかいません。怪異だなんて」  その声は震えている。宮岡は穏やかに返した。 「一目確認させていただければ帰りますから」 「帰ってって言ってるでしょう!」  突然何かが破裂したかのように、香世の母が絶叫する。透太はビクリと肩を縮めたが、宮岡は動じなかった。 「生憎ですが、出来かねます。佐々木さん、最近香世ちゃんの様子がおかしいと聞きましたよ。そのせいで学校でいじめにも遭っている。香世ちゃんのためにも、原因を確かめたいと思いませんか」 「あなたに何がわかるって言うの――ッ!」  その時、香世の甲高い声が二人の間に割って入った。 「あっ! ダメ、リク!」  鼻を突く異臭が濃く、粘膜を突き刺すようなものに変わる。たまらず透太が顔を背け、宮岡の背にも緊張が走った。  ラブラドール・レトリバーのリクは、白っぽい犬だと聞いていた。淡いベージュの毛並みに、背中だけがこんがり焼いたトーストの色。いつも笑ったような顔をして、ピンク色の舌を垂らしていると聞いていた。  それが、なんだ。これは。  そこにいるのは、異形の怪物だった。  それが歩くと、湿った毛を引きずって、みちゃりと耳障りな音がする。美しかったであろう毛並みには、まるで砂浜に打ち上げられた漂流物のように、どどめ色の汚らしいものが付着している。目には赤い火の玉がともり、ダラリと垂れた下顎からは、泥とも吐瀉物ともつかないものが流れ落ちていた。
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