親父のお話

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「ちょっと、散歩してくる」 「お昼御飯もうすぐよ」 「すぐ戻る」  台所で何か作っていた母親に、そう言って俺は外に出た。  しばらくブラブラと歩くと波の音が聞こえてきた。そして、行くあてもなく辿り着いたのは、親父と釣りをしたあの堤防だった。空はどんよりと曇り、浜松の海が何だかもの悲しげに見えた。そうだ、あの日はこんな事もあったな。    ○    波の音が大きくなって、雨の音がまじる。  急に勢いよく降り出した雨。どこか遠くで雷が鳴って、公園のトイレに来ていた俺は急に心細くなって、走って堤防へと戻った。 「和馬ー。和馬―!」  雨の音に混じり、親父の必死に呼ぶ声が遠くから聞こえた。俺は、ギュッと体が縮こまった。また怒られる…… 「和馬! どこ行ってた!」 「公園の、トイレ」 「バカヤロウ! 勝手に行くな!」 「……ごめん」  怒られる! と思ったその時、親父がびしょ濡れになった顔を歪ませた。 「心配しただろうが。バカヤロウ」  俺は、その歪んだ親父の顔と、雨が浜松の海に激しく降り注いでいたのを思い出した。   ○  家に戻って、かなり遅めのお昼ご飯を食べた後、さて、絵本のことをどう聞こう? と思案していると、答えは向こうからヒョコッと顔を出した。
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