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第十五話 友達だから
時は今に戻る。
私は私の意志でウルの前に立っている。
もし本当に彼女が誤った道を進んでいるのであれば、私は友達としてそれが間違っているということを教えてあげなければならない。
「なんで、ちゃんと発動させたはずなのに、どうして……」
彼女は私に対して発動した魔法が効かなかった事に対して酷く狼狽していた。
恐らく今まで魔法が効かなかったという事を経験してこなかったのだろう。
「ウル、もうやめようこんな事。こんな方法で無理やり相手を従えたって意味ないよ」
「うるさい!意味がない?あるわよ!こうすればみんな、みんな私の言葉を聞いてくれるの!適当に聞き流したり、無視したりしないもの!!」
ウルはそう叫ぶと手にした魔装具の表面が再度発光する。
再び私の感覚は地面へと落ちそうになるが、もはや対処法をわかっている今
私がその術にかかることはなかったか。
先ほどと同じように意識を集中させ、念じる。
この感覚が幻だという事を、こんな事はありえないと願いを込める。
人差し指に着けた指輪へ。
****
『エーナさん、これを着けていただけますか』
そういってアルバートさんは小さな黒い指輪を私へ差し出した。
『これ、何ですか?』
『それはとある加護が刻まれた指輪、単刀直入に言えば精神魔法に対する対抗呪文が刻まれたものです。これを身に着けておけば彼女が使用してくる精神魔法をある程度無力化してくれるでしょう』
『へぇ!着けるだけである程度無力化してくれるなんてとっても便利……あれ?ある程度?』
『はい、残念ですがその指輪を着けるだけでは完全には無効化する事はできません。先ほどのエーナ様のように完全に動きを縛られる事はないでしょうかめまいや立ち眩みなどある程度の精神的ダメージは残ってしまいます』
『えぇ!?完全無効化する指輪はないんですか?』
『もちろんありますよ、付けているだけで大抵の精神系魔法、それどことかこちらに対して魔力での攻撃を行ってくるものに対しての完全耐性を得る事ができる指輪……とまああるにはあるのですが、そういった非常に強力な物は持ち出し事態が原則禁止されておりまして』
『なるほど……貴重品だから持ち出したりできないんですね』
『いや、まあ持ち出そうと思えば出来る物もあるのですが、そういったものは持ち出し申請用の書類の作成も面倒ですし、あとは使用料も馬鹿にならないもので……』
『使用料!?お金かかるんですか!?』
『いえまあ、その、一部のものだけですが。何分私たちの組織も資金不足でして。
ともかく、その指輪だけでは完全に無効化する事はできません。ですがそれはあくまでも指輪のみに頼った場合の話です』
こほんと軽く咳払いをし、改めてアルバートさんは話を続ける
『エーナ様、もし彼女から魔法を受けそうになった場合、この身に着けた指輪に向かって強く念じてください。これから起こることはすべてまやかしだと強く否定するのです、そうすることでこの指輪に刻まれた呪文が活性化し完全に無効化することができるはずです』
『そんな事で無効化できるんですか!?』
『ええ、粗悪な魔装具を使用しての術、ましてや魔法使いではなく知識もない一般人が行使する魔法です。何も知らない非術師相手なら有効ですが、対策さえ取れていれば恐れる事はありません』
『なるほど……、ところで指輪に向かって念じるってどんな感じですか?
魔法は効かない……魔法は効かないみたいな?』
『そうですね……念じ方はいろいろありますがエーナ様が一番気持ちの籠る念じ方がよいですね。これは魔法の基本概念でもありますが、まず自分が成功を信じられなければ魔法は成功しません。今回は魔法の発動とは少し異なりますがエーナ様が思う魔法が絶対に効かないというイメージと共に指輪に強く念じてください、そうすれば彼女の魔法があなたを犯すことはないはずです』
彼はそういと改めて私へと指輪を差し出した。
私は差し出された指輪を受け取る。
指輪にはやはり細かい文字のようなものが刻まれており、色こそ違うが昨日アピロさんから渡されたあの指輪とよく似ていた。
『エーナ様がウル様と対峙する際は私も気づかれないようできるだけ近くからやり取りを監視しておきます。無理に探りを入れて警戒される必要はありません、エーナ様から軽く質問する程度でいいのでわかりやすい情報を聞き出してください。もし危険と判断した場合は私が直接彼女から魔装具を取り上げて事態の収拾をはかりますから、無理はしないでください』
****
指輪へ強く念じた直後、私の視界は正常な状態へと戻り全身を襲っていった不快感は消え去ていた。再度彼女が使用した魔法は無効化されたのだ。
私は目の前で魔法が再び発動せず、呆然としているウルの目をまっすぐに見つめる。
小さな声で、うそよ、どうしてとつぶやきながら少しずつ後ずさる彼女の目は私の知っている綺麗で力強いものではなかった。
その目は薄暗く後ろめたい少し濁ったような感覚を覚える。
今の彼女は正常じゃないとなんとなくだけど、私はそう感じられた。
(きっとウルもわかってるんだ、これがやっちゃいけないことだって)
昔、アメリーやウルによく怒られた事がある。
一人で夜道を出歩いたり町の外に出てしまったり、危ないことをした時だ。
二人とも私が嫌いだから怒ったわけじゃない、私が友達だから怒ってくれた。
昔からそうだった。間違ったり、危ない事をしたときはお互いにちゃんと叱ってあげていた。
だからこそ、今回は
「ウル、あなたのそのやり方は間違ってる!だから今回は私が叱ってあげるんだから!!」
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