第十六話 力になれる

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第十六話 力になれる

呆然としている彼女を前に啖呵を切った私は、ゆっくり彼女へ向かって足を進める。 ウルは少し遅れて私が近づいている事に気づいたようで、手に持った魔装具を前へ出しながらじりじりと後ろへ下がり始めた。 「なんで、なんで効かないのよ!? どうして……さっきはちゃんと効果があったのに、どうして……」 ウルは魔装具を使って何度も何度も、魔法を発動させる。けれどもはやその魔法は私に効果を発揮する事はなく彼女が願う現象を引き起こすことはない。 途中からは魔装具から発せられ光さえ出ず発動にさえ失敗しているように見えた。 私はそのまま歩みを止めず、彼女へと近づく。 「近づかないでエーナ!!それ以上近づいたらもっと、もっと酷い目に合わせるわよ!!」 彼女は震えた手で再び魔装具を構えて威嚇する。様子を見る限り、これ以上下手に動いてしまうと私はウルの敵と思われてしまうかもしれない。そうなってしまえばアルバートさんが言っていた記憶を操作する魔法が発動し、彼女の記憶から魔装具に関する情報が消えてしまうかもしれない。 正直最初は、記憶がなくなってもウルが助かって元に戻るならそれでもいいと思った。昔みたいに、とってもわがままだけど本当は優しい彼女に戻るならそれでもいいと。 でも改めて今の彼女と対峙して、考えてが変わった。 私は知りたい、貴方がどうしてそんな物を欲しがったのか。 私は知りたい、貴方がどうしてそれを手に取ってしまったのか。 「ねぇウル、どうして私をタリアヴィルへ連れて行きたかったの?」 無意識にそんな疑問が口から溢れた。 先ほどまで怯えた表情をしていたウルの顔に少しだけ動揺の色が見えた。 そしてほんの少しだけ一瞬だけど長く感じるような、そんな静寂があたりを包む。 「……エーナが私のことを一番にわかってくれてる友達だからよ」 ウルはその質問に少し逡巡したあと震えた声でそう答える。 「王都に行ってから私、楽しいことなんて全然なかった。 毎日毎日、好きでもない政治や商いの勉強をして、専属の家庭教師からは怒鳴られて、学校でも田舎出身者だからって毎日いじめられて、お母さまも、お父様に行っても、忙しくて全然取り合ってくれなくて、誰も、私の事をわかってくれなかった。 (ここ)を出てから私は全然良いことなんてなかったの……。 アメリーだって、お父様達と同じで、忙しいっていう理由で全然会ってくれなかった。そしたらもう、頼れるのはエーナしかいないじゃない」 今にも泣きだしそうな何かを諦めた様な表情で彼女は問いかけへの答えを吐き出した。 ああ、なんて事はないただそれだけの事だった。 頼れる相手が身近にいなくて、辛くて、逃げる道も見つからなくて、そして私を頼ってきた。 答えを聞いた時にはもう、私は無意識に、彼女の元へと駆け出していて、来ないでと叫んだ声も言い終わらない内に、彼女をぎゅっと抱きしめていた。 「エーナ……何をして……」 「助けてほしいなら最初から言ってよ。悩み事でも何でも、理由を話してくれなきゃわからないよ。私、人の気持ちを察したりする事が下手だから、ウルがそんなに辛い思いでいたって事全然分からなかったよ」 「何を言って……、離してよエーナ」 ウルは抱きついた私から離れようもがく。 でもそれも最初だけで、徐々に抵抗は小さくなって行った。 「私は確かに頼りないし、村から出た事もなくて外の事も全然知らないけど、友達の悩みを聞いて一緒考えてあげる事ぐらいは出来るよ。ウルが今悩んでる事がどれくらい大変な事までかはわからない、けどきっとそんな道具に頼らなくても解決できる方法はあるはずだよ」 そう語りかけながら、私は先程よりもほんの少し力を強めて抱きしめる。 「嘘よ、エーナだって私が魔法使いにしてあげるって言って誘ってあげたのに頷いて……一緒に来てくれなかったじゃない」 「私を誘ってくれたのはそれが理由じゃないでしょ?ウル、一度全部話してよ。王都に行ってから何があったのか、どうしてこんな事になったのか。まあもしかすると全然力になる事は出来ないかもしれないけど、それでも何が起こったかわからないとウルの事を助けようとする事も出来ないじゃない」 喋っていて少しむず痒く感じる様な事を言ってしまい、私は少し照れ臭くなってしまう。 そんな事を思っているとか細い声でウルが 「本当に、本当に力なってくれるのエーナ?」 「当たり前でしょ、だって私達友達じゃない?」 そう、友達だから。 困っている時は、助け合うのが当たり前だから。 アメリーが私を助けてくれるように。 私もウルを助けてあげるだけ。 そうしてしばらくの間、私を強く抱き返す両腕と共に一人の少女の鳴き声が月に照らされた思い出の場所に木霊するのだった。
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