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第十八話 ひとつ終わってひとつ始まる②
「魔法が暴走って……、そんな私ウルから無理やりとりあげたりなんかしてないのに」
「私も監視していましたがそんな事が起こっていない事は知っていますよ。
ただ結果として記憶魔法が発動、というよりも先ほど話した通り暴走を起こし、お二人はその魔法に巻き込まれその場で倒れました。
その後は急ぎお二人をアメリー様の家に運び込み、ウル様は一日程、エーナ様は3日ほど寝込んでおられたというわけです」
「三日って、私そんな長い間寝てたんですか!?」
「ええ、三日間ぐっすりでしたね。外傷などは特にありませんでしたが、起きる気配も全くありませんし、魔法の影響で記憶に障害が起こっている可能性もありましたので世話をしながらもアメリー様はずっと心配なされていましたよ、エーナ様の横で」
そういってアルバートさんが視線を投げたベット横にかをを向けると、
そこには小さな丸机の上に突っ伏した状態で寝息を立てているアメリーの姿があった。
「お二人の面倒を見るために態々王都へ帰る日程をずらしたという事です。
本当に、いいお友達をお持ちですね」
小さな寝息を立てている彼女の髪は少しぼさぼさとしており、おそらくこの数日は身だしなみを整える事などもしていない事が伺える。
「アメリー……」
「ちなみに私はすごい剣幕でアメリー様に詰められまして、事の概要を仕方なくお伝えしたのですがあなたを巻き込んだ事に関してはひどく攻め立てられまして、一発痛いものを貰ってしましました」
アルバートさんは自分の頬の片方に手を当てる。
恐らくアメリーに頬を強くはたかれたのだろう。
「そういえば、ウルの方はどうなんですか?もう王都に帰ったって言ってましたけど」
「ウル様も体について特に問題はありませんでした。しかし残念ですがやはり魔装具に関する記憶は抜け落ちていまして、詳しい事は思い出せないとの事です。ただ暴走、またはエーナ様が巻き込まれた影響か思い出せないながらも周りの人々に何か悪いことをしたというような記憶が朧気ながら残っているようでした」
「そうですが、特に何もなかったのであればよかった……」
「ええ、一応一通りの事情聴取とこれまでにあった事は彼女に伝えました。
エーナ様にはご迷惑をかけたという事で酷く反省しておられる様子でしたよ。
本当はエーナ様が起きるまで村に残るとおっしゃっていたのですが、ご家庭の事情もありまして王都の方へ先に戻る事になりまして、昨日村を発った次第です」
「そうだったんですね……」
話を聞く限りではウルもどうやら大丈夫そうだ。
村を発つ前に話ができなかったのは残念だけれど、元の彼女に戻ってくれているのならうれしい。
「さて、ここまでがエーナ様が寝ている間に起ったことです。
そしてエーナ様、ここからはあなたの今後についての話になります」
「私の今後?」
今何のことだろうか。
ウルが帰った今別段私に差し迫った予定はないような……。
「エーナ様には王都にある魔法協会に来ていただきたいのです」
「へー、魔法協会に……え?」
魔法……協会?
そこに私が……?
「……えええ!?なんで私が魔法協会に!?」
「はは、元気のよい反応ありがとうございます。
はい、エーナ様には一度魔法協会、厳密にはその中の私が所属する執行機関に来ていただきたいのです。一応先んじて言っておきますが、エーナ様が何か悪いことをしたですとかそういうわけではありませんから、そこは安心しておいてくださいね」
「(私が真っ先に質問しようとしていた事を先に言われた……)」
私の扱いに慣れてきているのだろうか。
「さて、理由についてですが、エーナ様には執行機関で細かい検査を受けていただきたいのです」
「検査?一体なんのですか?」
「今回エーナ様は暴走した不正な魔装具から発生した記憶の操作魔法に巻き込まれた事は先ほど説明致しましたね。一応起きてからのエーナ様を見る限りは別段問題はありませんが、どこかしらの記憶に異常が起きていてもおかしくはありません。そこで一度王都にある本部に来てもらい、今のエーナ様の状態を確認したいのです。一応私の方でもエーナ様にかかった記憶魔法の痕跡や影響はチェックしましたが、設備のないここでは簡易的な確認しか行えないためどこまで影響が出ているのかわからないので」
もちろんウル様にも同じお願いをしています、とアルバートさんは最後に付け加えた。
「まあ今回のように第三者が不正魔装具から発せられた魔法の巻き込まれた事例はありませんので、もしかするとエーナ様の体に残っている痕跡から術の特徴などが把握でき、そこから犯人の割り出しが行えるかもしれない……という本音部分もありますが……ああ、もちろんエーナ様の事もちゃんと心配ですからね?」
「ありがとうございます。心配が建前で調査のために検査をしたいという事が本音であることは私にも伝わりましたよ」
私はニコニコと愛想笑いを浮かべそう返答する。
まあ、とはいえ本音を隠されるよりは私個人としては疑いながら話をしていく必要がないため気が楽なのだけれども。
「ま、まあというわけでエーナ様には王都の方へ足を運んでほしいのですが、如何でしょうか?もしもう体に問題がなさそうであれば明日には村を出て王都へ向かいたいと思うのですが」
「そんなに早くですか!?うーん、特に予定はなかったきがするんですけど、何か大事なことを忘れているような……」
ウルの件でいろいろ直前に起った出来事がうやむやになりうまく思い出せないのだが
そう、ウルの件とは別で何か最近私に関係する大事なことがあったような……。
えーと、確かウルに使用人になるように迫られて、アメリーに相談して、ウルの件を断ろうとして、その後夜に……。
「あ、そういえば私誕生日の夜に母の友人が来て魔法の学校に……」
と、言葉を紡ごうとした時だ。
すぐ横から、うーんと背伸びをするような人の声が聞こえてきた。
そこへ振り向くと、そこにはぼさぼさの髪と眠そうな目をこすりながら起き上がる彼女の姿があったのだ。
「あれ、エーナ起きたの……?」
寝ぼけた声でそう尋ねてくる彼女に私は
「おはようアメリー、起きたわよ、私」
と声を返す。
しばらくぼーっとしていた彼女だったが、頭が覚醒し状況が飲み込めたのか
突然目を丸くしたかと思えば私に覆いかぶさるように突然抱き着いてきたのだった。
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