第二十話 私と王都、私と出会い

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第二十話 私と王都、私と出会い

村を出てから数時間、私ことエーナ・ラヴァトーラは空の上にいた。 燦々と降り注ぐ日の光を受けながらグリフォンと呼ばれる生き物の背wに乗り快適な空の旅を……行えていなかった。 (か、風がすごいし寒いし割と揺れるし手を離したら落ちそうだし景色を見てる余裕がない……) アルバートさんの計らいで空飛ぶ生き物を用い速足で王都へ向かえる事になったのはうれしい誤算だと心の中で思っていたが、早いという事はその分速度が出るという事であり、私は落ちないよう必死に鞍についた取っ手にしがみついている。 「すいませんエーナ様、いつもならここまでの速度を出すことはない子なのですが、どうやら何か気分が乗っているのか気合が入っているようで。無理に速度を落とすように言うと機嫌をそこねるかもしれないので申し訳ございませんがもうしばらく耐えてください」 風を切る音の中、私に声が届くよう大声でアルバートさんはそう語りかけた。 とにかく今は目を瞑り猫のように縮こまりながら目的地に着くまで待つしかない。 そうやってまだかまだかと何度か同じ考えを繰り返す。 そして何度目かわからない頃、風を切る音と揺れが先ほどよりも穏やかになってきた。 私は恐る恐る俯けていた顔を上げ前をみる。 そしてその視界に入ってきたのは。 「なにこれ……凄い、なにこれ……こんな大きい……、これがもしかして……」 「はい、ここが私たちの目的地『王都ストウロット』です」 私の視界に入ったのは高い石の壁に囲まれた非常に大きな街……、いや都だった。 まだ遠いからから細かくは見えないが、都市中央には絵本で見たような、いや絵本で見たものよりもより立派でゴツゴツとしていて繊細な大きな城がそびえ、それを中心として建物が並び立っている。見てわかる、あれが大通りであれが路地で。ああ、アメリーの家で見たことある。確か壁にかかっている絵だっただろうか、そうかあの絵は空想ではなく、王都を描いた絵画だったのだ。残念だ、これ以上は私の知識でうまく表現の仕様がない。 だけど言える事は。 「すっっっごい!すごいすごい!これが王都!アメリーやウル達が今住んでる場所!!こんなにすごい場所なんだ!」 「ははは、ええ凄い所ですよね。おそらくこれくらい大きく立派な都市は他の国でもそうそうないでしょう。ただそれとは別にしてエーナ様は運がいいかもしれませんね 」 「どうしてですか?」 「普通に王都へ足を運ぶなら城門が入ることになるため。大きな石壁が最初に目に入る事になると思いますが、エーナ様は空から全体をはじめに見れましたよね。これは普通の方々では滅多に経験できない事です。こういう心に焼き付く光景というのは第一印象というのは大事ですから」 そうか、普段ならこの都を空か眺めるなんてあまり無い事だ。それに加えて私の場合は初めてがそれである。そう聞くと何かちょっと得した気分になる。 「さて、感動の時間はそろそろ終わりして王都へ降りましょうか。高度を下ろしていきますよ」 そういってグリフォンの首から延びる手綱を引くと高度が徐々に落ちていき、下に見える城門ではない別の方向へとグリフォンは向かっていく。おそらく降りる場所がわかっているのだろう。 グリフォンは外壁を外から大きく回り、どんどん高度を降ろしていく。 そしてあたりの建築物より高い場所に、ちょうど何かが降り立つように作られたかのような柵に囲まれた広い高台を持つ建物が見えた。 グリフォンは旋回しながらその高台に吸い込まれるように降り立つのだった。 「付きましたよエーナ様、空旅ご苦労様です。君もご苦労様」 アルバートさんはそう言ってグリフォンの頭を撫でる。 「あのアルバートさん、ここはどこなんですか?」 「ここは魔法協会近くのグリフォンなどの飛行動物の発着場です。王都に入る飛行動物達は特定のルートでこの場所からの出発と着陸を行うよう躾けられているんです」 「賢いんですねグリフォン達って」 「そうですよ、人の顔もちゃんと覚えますし言っている事も理解してくれます。 だから意地悪したり傷つけたりするとその人は背中には二度と乗せてくれなくなってしまうので、触れ合うときには十分注意してください」 生き物にそんな意地悪をしたり傷つけるような事をしたりなんてしないですよ!とそう言い返そうとした時だった。 「アルバート先輩ーーー!」 遠くからそう呼ぶ大きな声が聞こえた。 声のする方向に向かい、柵から下を除くと建物の下に大きく手を振りながら叫ぶ人物の姿があった。 「おやおや、いつも出迎えは要らないといっているのですがね」 「お知り合いですか?」 「ええ、同じ魔法協会の職員ですよ」 グリフォンから荷物を降ろし近くにいた係員に手綱を預けた後、私とアルバートさんが建物の外へでるとそこには先ほどと同じく手を大きく振り上げる黒いローブに身を包んだ人物の姿があった。 髪は綺麗な金色のおかっぱ、顔はウルほどではないが少し幼い感じを受ける私と同い年くらいの少女である。 彼女はこちらを確認すると駆け足でアルバートさんの元へ向かってきた。 「先輩、長旅お疲れ様っす!」 「労いありがとうございます。毎回言ってますが、別に毎度毎度出迎えてもらう必要はないのですよ」 「いやいや、やはり兄弟子たるアルバート先輩の帰還をねぎらうのも私の仕事っす! 師匠も言っていましたから、基本的な挨拶は大事だって!」 「いやまあそうですが……」 「ところで先輩、お隣にいらっしゃるのはもしかして先日連絡にあった例の女の子っすか?」 「ええ、こちらが魔装具の件で協力をしてくれたエーナ様です」 「えっとその、エーナ・ラヴァトーラって言います、よろしくお願いします」 この会話の勢いの中突然話を振られたためおずおずと挨拶を返してしまった。 「おお、あなたがエーナさんっすね!!話は聞いているっす!魔装具のせい精神が毒されてしまったご友人のために体を張ったっていう!!」 「ええとその、確かに協力はしたんですけど、結局私はそんなに役に立ってなくてその……」 「いえいえ、友人のために体を張れるその姿勢事が偉大なんですよ!尊敬します!!」 なんだろうすごい圧を感じる子だ。 「こらこら、エーナ様が困っているでしょう。それに自分の自己紹介をがまだなのではないですか?」 「おおっといけない。挨拶を忘れていました。 私の名前はキャトルズ・バーウィッチっていいます。 呼ぶときはキャトでいいっすよ、よろしくっす!」 「ええと、こちらこそよろしく、キャト」 村では出会ったことないようなタイプで私は少し気おされてしまう。 「まあいいタイミングではりましたねキャトルズ。私は一度いろいろな手続きや報告で寄るところがありますので、エーナ様を執行部の応接間まで案内していただけませんか」 「承知しました!このキャトルズ、エーナ様を安全に応接までご案内いたしますっすよ!」 その後、任せてくださいとキャトルズは自分の胸を手でたたき恰好をつけるが、強くたたきすぎたのか少しだけ咳き込んだ。
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