第九話 運命の分かれ目➂

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第九話 運命の分かれ目➂

 魔法使い。  その言葉と共に、彼女(アピロ)が目の前で起こした現象を目にし、  私の頭はもはやパンク寸前だった。  アピロは手のひらに現れた小さな炎の玉を真上に放り投げると、落ちてきたそれを真上に立てた人差し指の先で受け止めたりとボール遊びでもするかのように片手で弄んでる。  その光景にもはや驚愕するしかない私は言葉を発する事も出来ず暫く呆然と眺める事しかできなかった。 「あら、大丈夫?ちょっと驚かせすぎたかしら。  まあサプライズはここら辺にしておいてそろそろ真面目なお話にしましょうか」  彼女はジュッという音共に出現させた火の玉を握りつぶす。 「再度改めて自己紹介させてもらうわね。  私の名前はアピロ・ウンエントリヒ、貴女の母親の友人、  そしてこの国で魔法使いをやらせてもらってるわ。  所謂魔女っていうやつね」  以後お見知りおきを、と彼女はあいさつの後に軽い会釈をした。 「さて、ひとつずつ整理していきましょうか。  今日貴女の家に伺った理由は3つあります。  一つ目は貴女の母親から預かっていた荷物を渡す事。  これはさっき私が貴女に渡した小箱の事ね」  そう言って彼女は私の手もにある指輪の入ってた小箱を指さした。 「あの、この指輪って何なんですか?  見たことのない記号というか文字みたいなものが書いてあるんですけど」 「その指輪は貴女の母親から預かっていたとある鉱石を使って作られたものなの。  表面に書いてあるのは魔術で使用する文字よ。  まあ文字が書いてると言っても今の指輪に特別な力はないのだけれど」 「じゃあ、この指輪何に使うんですか?ただのお守り?」 「お守りといえばお守りなのかもしれないけど、その指輪にはそれよりも大事な意味があるわ。これが二つ目の理由につながるの」  彼女は指を立てて二つ目、とこちらにアピールする。 「二つ目はね、貴女に魔法学園に入学する許可が下りたこと伝えるため。  実際の用途については今は割愛するけど、  その指輪はね、魔法学園に入学するために必要な物の一つよ。  貴女がいずれ魔法使いになりたと思った時のために、貴女の母親からお願いされて準備していたの」  その言葉に私は耳を疑った。  母は私が魔法使いになる事をよく思っていなかったはずだ。  あんなに魔法使いになる事に否定的だった母が私のために準備をしていたというのだろうか。 「あの、本当に母がそんなことをお願いしたんですか?」 「そうだけど、それがどうかしたの?」 「えっと、私のおかあ……じゃなくて母は、私が魔法使いになる事にずっと反対してたんです。だからまさかそんなお願いをアピロさんにしていたなんてびっくりで」 「そうなの?私はそんな話きいていなかったけど。  でもあなたの母にお願いされたのは間違いないわよ。  態々貴重な鉱石まで用意して私に準備をお願いしたのだもの」 「そう……なんですか…」  私は母からよく言われた言葉を思い返す。 『魔法使いよりも、貴女に似合うすばらしい仕事がいっぱいあるはず』  まるで口癖のように言われた言葉。  そんな母が私のために魔法使いになるための準備をしていた。  その事実が、私には信じられなかった。 「まあ、貴女の母親の間に何があったかは知らないけれど、  とにもかくにもそれは貴女のために用意されたものよ。  安心して受け取ってちょうだい」  アピロは念推すようにより私の方へ小箱を寄せた。 「他にもまだまだ聞きたい事はあるかもしれないけど  先に三つ目の理由について説明するわね。  今までの話も含めてここが一番大事なのだけど」  先程までと違い、真剣な表情でアピロはこちらに改めて顔を向き直した。 「単刀直入に聞きます。  エーナ・ラヴァトーラ、  あなたは魔法使いになりたいですか?」 「え…」  本当に、単刀直入だった。  言葉を飾るわけでもなくただ私の意思の確認。 「いままでの話はあくまでも貴女の母親からお願いされた事を伝えただけす。  そしてそれを踏まえての貴女の考えを知りたいの。  あなた、魔法使いになりたい?それともなりたくない?」  魔法使いになりたいか。  私はその質問に答えることができない。  昔の私なら、考えるまでもなくはいそうです、と即答できていたことだろう。  けれど今のは私はすぐに答えを口にすることはできなかった。  昨日のウルとの会話したときもそうだった。  私は、魔法使いになりたかったはずなのに。 「あの、魔法使いってその、簡単にっていうわけにはいかないのかもしれないけど、  私みたいな魔法に全然縁のなかった人間でもなれるものなんですか?」 「なれるかどうかと聞かれれはそれはわからないわね、  まあ一般的な魔法使いは大体幼い頃から魔法に触れているし学んでるから  多少なりとも知識の差は付くかしら」 「そう、ですよね……。  やっぱり魔法を全く知らないような人間が魔法使いになるなんって厳しいですよね……?」 「さて、どうかしら?  最初は優秀だったけれ徐々落ちこぼれていく子もいれば、最底辺からトップへ上り詰めた子、特に際立つこともなく平凡なままな子、いろんな子がいたわ。  スタートで差がついているといっても、結局は当人の努力しだい。  もちろん努力したところでそれが報われるとはかぎらない。  けど言える事があるとすれば」  アピロは再び改まって私の眼を見る。 「踏み込まなければ、落ちこぼれる事も大成する事もできなわよ」  そんな当たり前の事がアピロの口から紡がれた。  当たり前の話だった。  コインの裏表のように、最初から答えが二択で決まっているわけでもない。  投げたコインのようにすぐに答えがでるわけでもない。  なれるかどうか、そんな事やってみなければわからない。  当たり前の話だった。 「さて、エーナ・ラヴァトーラ、改めて貴女に問います」  アピロのその怪しく美しい整った美貌が私の顔を見据え  そして改めて彼女は私にこう言ったのだった。 「あなたは魔法使いになりたいですか?」  
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