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君の家をこっそり飛び出して少し歩くと、突如汚れた塊が降り注いだ。幼い頃に一度だけ触れたあの白くてふわふわしたものこそが私にとっての雪なので、本当は今ここで降る汚い塊を雪なぞと直接形容したくはないのだが、とにかく地面に居座るザラメ雪と酷似したそれはとても冷たかった。
まるで君のいなくなることを悲劇的に惜しむように。
家の鍵を回し、少し傷ついた水色の椅子に腰かける。扉と向かい合わせで、ただぼんやりと。
照明は消して、カーテンも閉めて、埃を取りきれなかったカーペットにブーツを擦り付け、その靴裏からの毛の僅かな感触だけに意識を集中させながら、静かに瞳を閉じた。
こうして眠るふりをしていたら、この目の前の二重扉の両方が開かれたらいいのに。
唯一鍵を託した君が、「あなたに会いたい、最後にもう一度だけでも」なんて言いながら現れたら、もう最高だ。
そうしてくれれば、私はもう君をここに閉じ込めてやって、君の旅なんか全部なかったことにしてやるのに。
そう。だから来るのは、君だけが良い。うん、きっと、そうなんだ。
「ははは…」
私はついさっきのことを思い出していた。
ああやって、そっとパーティーをあとにしたのはそんな打算的で画策されたものじゃない。
ただ、逃げただけだった。
だって、彼の見せた幻覚は、どうしてああも美しかったのか。
あんなもの、みたくなかった。
忘れたいのに、忘れられなくなってしまった。
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