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~綺麗な海~
「あなたの人生で、一番綺麗な記憶ってなんだった?」
昔から、変わらない君の蒼い瞳。この地のすべての生命の活力と命を、絶えず与え続けているような不思議な色。幻想と現実の違いがわからないほど。
遠い過去に一緒に終電の小さな列車に乗り込んだ日の君と、それは何ら変わりがない。
冷たい潮の匂いがする。
「君が私の椅子の背もたれを傷つけたこと。今も随分な曲線だよ、あれ。」
私はあえて意地悪な言い方をする。しかし、君はいつものように言い返すこともなく、優しげな笑みを浮かべるのみだった。それで勘弁しろとでもいうのか。君はゆっくり口を開く。
「遊びに行くと、いつも君あの椅子に座ってるもんね。ってかそれ、私との思い出じゃん。うれしーや」
「たまたまだから」
私は思わずそっぽを向く。君は、今度は声を漏らして笑った。
「寂しくはない?」
「寂しくない」
今までで一番強がった私に、君は何を想うだろうか。
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