ラムネとたんぽぽ

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ラムネとたんぽぽ

 とぼとぼと私と涼は校門を出た。私のせいで、涼は消えてしまった。だから、この人はあんな冷たい目でずっと私を見ていたのだろうか。申し訳なさに心がうずく。  角を曲がると、駄菓子屋の看板が見えた。 「真美、僕のお願い、聞いてくれる?」  涼がささやいた。  私は顔を上げた。いつの間にか泣いていた自分に気づく。 「一緒にラムネ、飲みたいんだ」  駄菓子屋のおばちゃんは、相変わらず声が大きい。 「お兄さん、お姉さん、何が欲しい?」 「ラムネを2つ」  店の前でふたを開ける。ビー玉がきらきらと揺らめく。しゅわしゅわと泡がこぼれおちた。口をつけようとした瞬間、私は涼に抱きしめられていた。 「ずっと君と一緒にラムネ飲みたかったんだ、恭介たちみたいに」  温かい。涼の体は温かい。全然、冷たくなんてなかった。やがてふいに涼は体を離した。 「理不尽だとは分かってたんだ。でも、君が僕のことを覚えていないのが悔しくて、さびしくて。ずっとあなたに会いたかったのに」  照れくさそうに笑う。 「冷たくしちゃった。まるでガキ、好きな子をいじめたくなるような……」  私は目を閉じた。目を閉じても、視界には黄色いたんぽぽが、ぽっと明るく光っていた。 (了)
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