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眉根を寄せる私をよそに、恭介と涼は談笑を始める。教室を見渡してみても、おしゃべりしたり、教科書を読んだり、あるいはさりげなくイケメンの涼を盗み見たりする女子がいるばかりで、不審気な顔をしている学生はいない。ひとり口をとがらせていると、教授が入ってきた。教室の喧騒がやむ。
教授は、テキストを1パラグラフ読むと、「えー、じゃあ、訳してもらおうかな」と教室を見まわし、私の左横の方に視線を走らせた。
「じゃあ、君、氷見涼くん」
ぎょっとした。この教授はクラス全員の顔と名前をしっかりと頭に入れているのだ。その教授が、前回までいたはずのない彼の顔を見て、その名を呼んだのだから。
「はい」
涼やかに返事をして、涼はすらすらと答えた。
「よろしい」
教授は満足そうだ。
私の斜め前の男子生徒が、小声でささやく。
「氷見の奴、いつも抜かりないよな」
え、っと思う間もなく、今度は私がさされた。
「じゃあ、宮村真美君、ここで使われている構文を説明して」
何を聞かれたのか分からなかった。
「前回やったところだね」
慌ててノートをめくり始める。でも、頭は違うところでぐるぐると回っていた。
知らないのは、私だけ?
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