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冷たい視線
「真美、予習復習はしろよな。語学は落とすとあとが厄介だぞ」
恭介がからかう。私と恭介と、そして涼も一緒に、大学の庭園でお昼を食べていた。私はさっき、気もそぞろに教授の質問に答えようとノートをめくったものの、それは違う講義のノートだった。それで、けっきょく答えられなかったのだ。
「ノートを忘れてきただけだよ」
私はふくれっ面で言う。そこへ涼が口を挟んだ。
「真美って、ガキのころからそうだったよな。宿題はやっているのに、ノート忘れたり、教科書忘れたり」
「そーいや、そうだった」
恭介が大笑いするのを耳にしながらも、私は血の気が引いた。氷見涼、なんでそんなことまで知ってるの? 私とは面識がないはずなのに。
「あー、俺、すごく喉が渇いた。コーラもう1本買ってくるわ。2人も要る?」
私も涼も手を振って要らないと答えた。恭介が庭園の外の自販機まで駆けていくのを見送りながら、涼と2人きりで取り残されたことに不安を覚えたが、同時に意を決した。悪いいたずらなのかどうか、問い質そう。
地面にはところどころたんぽぽがぽっと黄色い花を咲かせている。それを見ながら、私は涼に何て切り出そうかとしばし思案した。そして顔を上げると、思いがけず涼の顔が近くにあった。
「真美、本当は僕のこと、覚えてないんだろう?」
低い声だった。でも、それ以上に、彼の切れ長の目が、驚くほど暗く、そして冷たかった。私は全身が凍った。このうららかな春の日差しの中で、私は言葉も出ずに硬直していた。
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