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恭介がいたときとはうって変わって、涼は表情を消している。その瞳の奥に何があるのかはかりかねた。
ふいにうつむいて涼は左腕のシャツの袖をめくりあげた。私は目を瞠った。白い地肌に引き攣れたような傷跡。
「これは君が僕に負わせた傷だ」
相変わらず低い声。私は訳が分からない。そんな言いがかりをつけられても、まったく身に覚えがない。それどころか、彼を知りもしないのだから。
「これだけじゃないよ。僕の背中にも腹にも、傷跡がある。見てみる?」
「なっ」
思わず私は叫んでいた。背中や腹を見てみろなんて、何が言いたいの? 顔が熱くなるのが分かった。私が口をパクパクさせていると、恭介が駆け戻ってきた。
手にしたペットボトルの口から、しゅわしゅわと泡が吹きこぼれている。
「恭介、昔から炭酸好きだよね。ガキの頃はラムネにはまってた」
急ににこやかな表情にかえった涼。その言葉を聞いて、私も思い出した。そうだ、学校の近くの駄菓子屋で、よくジャングルジムの仲間とラムネを買って飲んだっけ。でも、その記憶の中に、やはり涼の姿はない。
やっぱり、私以外の皆が示し合わせて私をからかっているの? でも、すぐに混乱する。そんなこと、一体何のために? それに、さっきの涼の傷跡は何なんだろう。
でも、やたら昔の話を彼が言い出すことに、私は一抹の不審を抱いた。何かが、おかしい。
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