想い出

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想い出

 その夜は、一人悶々と悩んだ。本当に私が忘れているだけで、皆が正しいのか。どういう理由でかは分からないが、私の記憶から、彼のことがすっぽりと抜け落ちてしまった?   いやいや。  私は首を振る。だって、あの謎めいた言葉、「本当は覚えてないんだろう?」って、何か意味深すぎる。それに、田舎の小学校の同級生が、しかも仲の良かった3人が、東京の大学の、同じ学部の同じ語学クラスで再会するなんて、ちょっとありえない。恭介一人なら、そういうこともあるんだ、と驚いたくらいで済んだけど、3人も一緒だなんて、偶然にしてはできすぎている。  遠い記憶をたどる。校庭で夢中になって遊んだあの頃。縄跳び、缶蹴り、一輪車、いろんな遊びがブームになったけれど、ジャングルジムの鬼ごっこはとりわけ楽しかった。一緒に遊んだのは、6、7人くらいだったかな。男の子、女の子、半々だったと思う。一人一人の顔や名前を思い出そうとするが、かなりおぼろになっている。恭介の場合は当時とりわけ仲がよかったので、覚えていた。では、おぼろなメンバーの中に涼がいたのだろうか。  ジャングルジムの緑色の鉄棒の隙間を、右に左に、上に下に、逃げ回る、追いかける。外側にぶら下がったり、てっぺんに立ち上がったり。あの頃は何であんなに身軽だったんだろう。  でも、涼の面影は、やはり記憶のどこにもなかった。
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