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ふわりと足場がなくなった。一瞬、宙に浮く感覚。空が青い。光が眩しい。体が回転する。この上ない快感と、この上ない恐怖。何かに包まれていくような恍惚感。
なぜか氷見涼の表情が見える。吸い込まれるような深い瞳。その奥にあるのは……。
ごとり、とコースターが動き始めた。気がつくと、恭介が私の肩を押さえつけるように握っている。それから、慌てて手を離した。
「ごめ……」
言いかけた声が加速するコースターの音にかき消えた。
数分後、コースターを降りた私と恭介は涼と合流し、売店のアイスクリームを食べていた。
「ひやひやしたね」
涼が笑っている。私はまだ震えが止まらない。
「あれはあれでスリルあったよな、ほんまもんのスリル」
苦笑いする恭介に、私も頬をひきつらせてうなずく。
「昔はあんなに元気よかったのにね」
涼が私を見ながら言った。
「いつから、高いところが怖くなったの?」
何かが心の中できしんだ。いつから? いつからだろう。しかし話しかけておいて、涼は私の答えを待たずに歩きだした。「次はメリーゴウランドがいいな」。
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