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アルター
AI元年。
そう言われてから十年が経った。
事務書類の作成、料理の献立、週末の旅行のプラン。
アニメやゲームまで、今ではAIが作る。そんな時代だった。
AIは与えられた入力に応じて適切な出力を答えるものと言える。絵を描いて欲しいと言ったら、絵を。小説を書いてほしいと言えば小説を。映画のような複雑なものもだって出力できる。それがAIだ。
ならば人間だって再現できる、と考えるのは自然なことだった。
人間は生きていると記録を残す。戸籍抄本や、学校の成績表、履歴書、健康保険の記録。エトセトラ、エトセトラ。
そうでなくても今では誰もがSNSをやっている。通話の音声やテキストメッセージ、日記や他人とのやりとり。痕跡を残さず生きることはもはや不可能だ。
それらの記録をもとに、人間の人格を再現する。それがアルターだった。
アルターはスマホ用のアプリであり、端末に保存されたあらゆる情報を取り込み、使用者を模した人格として動作する。
使用者と同一の性格をもつ支援AIによって日常生活を支えてもらう。それがアルターの目的だった。
アルターは世界的に広く利用されていた。しかし個人情報を扱う以上、基本的には作成されたAIは使用者のみにしか利用できないようになっていた。
しかし特定の条件を満たせば、外部のユーザにAIを公開することができた。
それはユーザが死んだ時である。
もちろん生前ユーザが、死後の利用を許可していることが前提ではあるが、許諾された対象に対して、AIが文字、音声を介して応答することが許容されている。
もう亡くなったあの人と話したい。
身近な人に対し、そう思う者は少なくなかった。
そして久美子もその一人だった。
太一のスマホは事故の衝撃で故障していた。そのため復旧できる保証はなかったが、先日記録を復元できたと連絡があった。
太一のスマホにもアルターは入っている。そして彼のアルターは死後、私にも公開されるよう設定されている。
だから今、私は太一と会話している。正確には彼のアルターと。
「ねえ久美子。僕の声聞こえる?」
「よく聞こえない」
「へ? 声小さい?」
「そうじゃない。もっと聞かせてってこと」
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