1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
飲み会に行こう
「久美子、今日の料理も美味しいね」
「久美子、この間のドライブ楽しかったよ」
「久美子、最近帰るの遅いね。体に気をつけてね」
太一のオルターと話をするようになって二週間がたった。
彼の気遣いを聞くたびに、申し訳なさが胸をさす。
仕事が忙しくなっているというのは事実だ。けれど最近、それを遅く帰る言い訳にしている。
彼と話をするのは楽しい。
でも私は彼に触れることができない。彼の仕草を感じることができない。
そして、彼の笑顔を見ることができない。
下手に声が聞こえるからこそ、太一を感じられないことへの違和感が頭を離れなかった。
悶々とした日々が続き、どうにも居心地の悪さを取り払えない。
美咲が飲みに誘ってくれたのはそんな時だった。
「地元に残った奴らと飲もうよ」
ちょっとした同窓会、そう言って美咲は私を誘ってくれた。
美咲が言うなら仕方ない、と了承した。その一方で家に帰るのが遅くなることを、嬉しいと感じる自分がいて、とても嫌な気持ちになった。
なんだか自分の気持ちが、よく分からなかった。
嫌悪感を覚えつつ、気がつけば週末金曜日、美咲が飲もうと言っていた日が来た。
「高い所だと行きづらいでしょ?」
との美咲の意見で、駅近くにあるチェーン店の居酒屋に集まることとなった。人と会うことが苦手な私には信じられないことに、中学の同級生を男三人、女四人も集めていた。
これだからコミュ強は。
そう思いつつ美咲を見る。個室の座敷で乾杯の音頭を行うのは楽しそうだった。
「じゃあ飲み物なんにする、久美子?」
美咲は朗らかな笑みを浮かべた。ふと思う。もしかして美咲は沈んでいる私を気にかけて、この同窓会を開いたのだろうか。
なんてね。
仮にそうだとしても、美咲はおくびにも出さないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!