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最後に願いを一つだけ
結局のところ、いくら人の考えを模したとしても、AIはAIだ。
彼ではなく、彼に似た赤の他人でしかない。
リビングに残されたゆるキャラのぬいぐるみを見て、そんなことを思った。春先に旅行に行ったときに、顔がかわいいからと買った彼。でもアルターは彼のようにそれを持ち上げることはできない。
近くにいるからこそ、アルターが彼でないことが見えてしまう。
一度そう思ってしまうと、決してそれは埋めることができない。人間とプログラムには超えられない差があった。
「だから、別れようと思う」
私はアルターにそう話した。
今まで助けてありがとう。私は太一のことが好き。でも君は、太一じゃなかった。だから、ごめんなさい。
なけなしの勇気をふり絞った電話。
アルターと話をしようとしたのも、アルターを捨てようとするのも、全部私のエゴ。
私は最低だ。
無言の間の中で、胸の中でそんな薄暗い考えがぐるぐると渦巻いた。
「そっか」
しばらくの間をおいて、あっさりとした口ぶりでアルターは答えた。そしてこうも続けた。
「じゃあさ。最後に一つ、願いがあるんだ」
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