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ロベルトの侠気
「絶対に秘密なんだよ。だから、ついて来ないでよ! お願いだから……」
ロベルトは振り返りざま、小声でいった。自分のあとを尾行しているのは、チャーリーだろう。
けれど、そう言ったロベルトも、あるものをこっそりとつけているのだ。
ロベルトの視界には、サリーヌの姿がある。
サリーヌを見るだけで、そよ風に吹かれたかのように、ロベルトのからだ全体が浮かび上がって、そわそわしてしまうのだ。熱くなり、顔が火照ってくる。いつものことだった。
……道に迷ったわけではないのに立ち止まるたびに腰を屈めて叢に首を突っ込むサリーヌの姿は、長い間ひそかに彼女を想い続けてきたロベルトには耐え難い苦痛そのものだった。
サリーヌの周りには同族なのか、それともただの珍しがり屋の集団なのかまではわからないが、大勢が寄り来たっていて、サリーヌと一緒に捜しまわっている。自分こそがこの大捜索に参加する権利があるとおもったロベルトは、するすると地を這っていこうとした。それを押しとどめたのは、チャーリーだった。
「だめだよ、だめだってば!」
チャーリーは長い長い首をロベルトの頭に巻きつけながら、必死で叫んだ。
「どうしてそうやっていつも止めるんだよ!」
ロベルトも抵抗する。何処に行こうが行くまいが、
「オレの勝手だ」
と、言いたいのだ。
「あ、の、な、今、のこのことあいつらの目の前に出ていったら、脚で踏みつけられるぞっ! あるいは鋭い爪で殴り殺されるかもしんねえぞ」
種族のなかで一番の利口者で通っているチャーリーは、理路整然とものの道理というものを言って聴かせようとした。けれど、感情が昂ぶっているロベルトには通じない。
「おれはただあの捜索の仲間に加わりたいだけなんだ」
「だ、か、ら、それが通じないんだってば。な、やつらは物分りの悪い獣なんだから」
「そ、そんな……みんなを一緒くたにくくるなよ。一つのカテゴリーのなかに入れちゃって、一方的に相手を規定してしまうなんて、そもそも、人間のすることだぞぉ。ああいうのになっちゃったら、それこそお先真っ暗だ。な、行かせてくれよ」
なおもロベルトは抗弁する。
たとえ片想いの相手とはいえ、困り果てているサリーヌの姿を見なかったことにはできないのだ。ロベルトがそのままするすると進んでいった。
「待て待て、ちょっと待てってば!」
チャーリーもロベルトのあとを追った。奥深い森へ続く無数の脇道には、ロベルトとチャーリーの跡が残った……。
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