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完全防寒をして更衣室を出る時にドアの上の掛け時計を見ると19時前。少しの充実感と疲れを感じながら事務所が入っているビルを出ると冷たい風が容赦なく私に絡んでくる。思わず立ち止まる。そして自身に問う。
ーーーむっっっちゃ寒い!このままやったらあかん!寒さにやられてしまう!ここから一時間程かかる家で待っている彼に温めてもらうか?そうか、ここから十分程のところにいる彼に温めてもらうか…どうする?一時間の彼?十分の彼?どっちにする?………そんなん決まってるやん!十分の彼に決まってるっちゅーねん!
心の中でそう決めると、あなたがいる方へとすぐに足を踏み出す。
あなたに会いたくて、あなたに早く温めてほしくて、歩道を歩いている人の間をすり抜けて行く。最初普通の速さで歩いていたのに、気がつくと駆け足ぎみで…そんな自分に笑ってしまう。
ーーーあの角を曲がったらあなたに会える!
更に足は速くなる。
ーーーあの引戸を開けたら…
引戸の取手に指を掛けて勢いよく開ける。そして…。
「おっちゃーん!彼と、取り合えず大根とゴボ天とタマゴと餅巾着お願いっ!」
カウンターにいるおっちゃんに入るなり注文してカウンター席に座る。そしておっちゃんを見つめる。
「ハイ!お待ちどう!先に彼、置いとくな」
「おっちゃん、嬉しいわ!ありがとう」
そして、目の前に熱燗が置かれた。
「嬉しっ!やっとあなたに会えた!」
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