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4日目
毎晩大介は梓よりも遅く帰って来た。ホテルの帰りに何処かに寄ってくるのだろうか。女を家まで送っているのだろうか。浮気をした罪悪感ですぐに家に帰れないのだろうか。
自分より早く家に帰っていたら問い詰めてやるつもりでいた。私はあなたの後をつけてたのよ、何処に行ってたのかみんな知ってるのよ。そう言いたかった。でも大介は梓が寝てから帰ってくる。朝も早々に出掛けてしまう。話をする時間なんてまるでなかった。
「今日は早く帰るから、夕飯お願いね」
「え……え、本当? うん、分かった」
今日は会わないのか。彼女とケンカでもしたのだろうか。だから夕べは1人でホテルを出てきたのだろうか。
夕飯は大介の好きな焼肉にする事にした。毎日仕事帰りにホテル直行では、まともな食事なんてしていないだろう。お味噌汁の具は何にしようか。浅漬けも作らなきゃ。梓は考えを巡らせた。
慌ただしく1日が過ぎた。テーブルの上には漬物に煮物にサラダ、そしてホットプレートが乗っていた。夕飯の準備は万端だ。
「ただいま」
大介の声がすると梓は玄関へ小走りで迎えに行った。
「お帰りなさい」
「うん……」
大介は目を合わそうとしなかった。やはり後ろめたい気持ちがあるのだろう。そそくさと洗面所に手を洗いに行ってしまった。
梓はキッチンに戻りご飯とお味噌汁を盛った。冷蔵庫から肉を出しテーブルに運んだ。
「肉……」
大介はテーブルにつくなり顔をしかめた。
「うん。美味しそうでしょ?」
血の滴るような赤い肉。奮発して牛肉を用意していた。
「いただきます」
大介は味噌汁をすすり、漬物でご飯を食べ始めた。梓はかいがいしく肉を焼き、小皿に取り分けた。でも大介は漬物と煮物ばかりを食べ、肉には手を付けようとしなかった。
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