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「どうしたの? 焼肉好きでしょ?」
「うん……最近胃の調子が良くなくて」
「そうなの」
大介は胃の辺りを手で押さえた。そして特に会話をする事もなく食事の時間は過ぎていった。せっかくの肉も梓が1人で食べた。
「わざとか?」
大介が箸を置いて呟いた。
「え? 何が?」
「わざと肉なんて出したのか?」
「へ?」
わざとと言われても、梓はただ大介の好物を用意しただけだ。何を言われているのか分からなかった。
もしかして大介は、高価な肉を嫌味で用意したと思っているのだろうか。
大介は尾行されていた事に気づいていたのだ。浮気がバレている事を知っているのだ。なのにサービス良く牛肉なんて出てきたから、何か魂胆があると勘ぐっているのだ。
そう考えた梓は思い切って口を開いた。
「……私、知ってるのよ」
大介は目を見開き体を強張らせた。
「何を……知ってるんだ?」
「私毎日大介を尾行してた。何処で何をしていたのかなんて確認済みよ」
大介は悲しそうな目で私を見据えた。そしてガックリと項垂れた。
「やっぱり梓だったのか……知られたのなら……仕方がない」
大介は青白い顔でふらりと立ち上がり、ズボンのポケットに手を入れた。
「知ってるんだから。そのポケットには口紅が入ってるんでしょ?」
「口紅?」
「そうよ、女から私への嫌がらせでしょ? 確かに私なんか大介の妻になれたって安心しきって化粧もしなくなったダメ女よ。髪だっていつもボサボサだし、服なんて1日中スエットよ。夜だって疲れたって言ってさっさと寝ちゃう。でも、だからって他の女に目移りするなんて酷い! 私にダメな所があったら言ってくれればいいじゃない。大介が甘やかしたからこんなぐうたらな女になっちゃったんだから。大介が優しすぎるから図に乗っちゃったんだから!
お化粧すればいいの? スカート履けばいいの? もっと女らしくすればいいの? 大介の言うとおりにするから……もう浮気なんてやめてよ……」
大介を責めて離婚してやるつもりだったのに、喋ってるだけで梓の目からはボロボロと大粒の涙が溢れ出てきた。
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