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「……浮気?」
大介の顔がパッと輝いた。
「今更とぼける気? 毎晩ホテルに行ってたじゃない。インターの側の。キッチリ2時間楽しんできたんでしょ? どうするの? 私と別れてその女と一緒になるの? だったら慰謝料ちょうだい。この家もちょうだい。それくらいいいでしょ! この浮気者! 裏切り者! 大介なんか……」
梓はもっと文句を言いたかった。でも大介は梓を抱きしめ、お喋りな口を塞いだ。大介の唇で。
「浮気なんてしていない」
「嘘! じゃあ何でホテルになんて行ったの?」
「ホテルの内装工事を頼まれたんだ。その打ち合わせだ」
「本当?」
「僕が浮気したって証拠あるの?」
「……ない。写真撮ろうとしたら……エアコンのリモコンだった」
「はあ?」
大介は声をあげて笑った。屈託のない笑顔は後ろめたさなんてまるで感じさせなかった。
「梓ほど面白い人間はいない」
「おっちょこちょいって言いたいの?」
「早とちりだし」
「本当に浮気してないのね?」
「もちろんだよ。神に誓って」
「無神論者のくせに」
「でも神様は怖いよ」
「だよね」
梓は大介に抱きついた。暖かかった。大介を疑った自分が滑稽だった。こんなにも自分を優しく包み込んでくれるのは大介しかいない。梓は大介を愛している事を再確認した。
ふと硬いものが腰に当たった。ポケットの中の口紅だろうか。でももっと大きい物のような気がした。ホテルに行ったのが仕事だとしたら口紅は誰の物なのだろう。確認したかったが今はそんなムードではない。梓と大介はもつれ合いながらベッドルームへと入っていった。
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