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「酷い姿だ」
「!?」
背後から、レスリーの声がした。振り向くと姿もある。何故だ。
私は己の姿の顧みて羞恥のあまり、顔を背けた。せっかくの機会だというのに、よりによって水浸しで頬と瞼を腫らしているとは。この落胆は生涯忘れないだろう。
「昨晩は隊のものがあなたに失礼を……。すまなかった」
「!?」
「揉め事が起らないよう、酒場へはできるだけ毎日顔を出すようにしていたのだが、昨日にかぎって……。申し訳ない」
「……いいえ。私の気のゆるみが招いた結果です」
「右壁だの左壁だの、俺はこんなのおかしいと思っている。同じ王を守護する者として、確執を無くしたいんだ。許して欲しいとは言わないが、口先だけではないと証明したい。途方もない時間を要するが、見ていてくれないか」
思った通り、彼は気持ちのいい人物だった。
そして少しの会話をした。彼ときちんと会ったのはそれきりだった。
実質、これまでと何もかわりはないが意識が違う。
毎朝の謁見では玉座の左右に自分達が立つことを想像した。
隣に立てたら彼に言いたい。私もずっと同じ気持ちだったと。
進みつづけると決めてからは、孤独であっても辛くない。謁見の場で、酒場で、訓練場で、顔が合うたび、彼とは視線を交わすようになった。
それだけで、私の矜持は色褪せない。
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