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「ユーリ隊長、杯が空っぽじゃないですか。今、お注ぎしますから。——さあ、どうぞ! ぐいっといってくださいよ」
「いや。私はもういいよ」
「何言ってるんですか! サマル派のやつらに示しがつきませんぜ」
「ほら、こっち見て笑ってらあ。頼むよ、隊長。俺たちに恥かかせないでくださいよ!」
「……仕方ないな。これで最後だ。私はもう帰るよ」
酒は苦手だが、なみなみと注がれた琥珀の液体を一気に飲み干したのは、面倒だったからにほかならない。
酒場は嫌いだ。それでも私は決まった日に足を運んでいた。会いたい人がいるからだ。
彼がいないなら用はない。つまらない派閥争いに巻き込まれる前に、と席を立ったが、背後から肩を押され再び着座する羽目になった。
「こ、こら! 私はもう帰る。は、離しなさい!」
「今日はあっちの隊長がご不在だ。たまには俺らに花を持たせてくださいよ。こっちはいつも肩身の狭い思いをしてるんだ」
「そうそう。あんたが三日おきにしか酒場に来ないせいで、立つ瀬がないんですよ」
玉座を固める双璧、左壁のサマル将軍と右壁のライオネル将軍。それぞれの配下は対立関係にあった。
一方の隊が手柄をあげれば、一方は次こそはこちらがもっと大きな手柄を、と歯ぎしりをする。
切磋琢磨といえは聞こえが良いが、度が過ぎる。高め合うどころか、足の引っ張り合いもないとはいえない始末だ。
おそらく、どちらの派閥も将を敬慕するあまりの競い合いから始まったもの。とはいえ行き過ぎだ。
酒場でも、いつだって線を引いたように分かれ一触即発の空気が漂う。
同じ王をお守りしているはずなのに、双璧がいがみ合うなど、私にはとても解せない。
「……くだらない。実にくだらない」
「うちの隊長はこれだからな。サマル派は気に食わないが、隊長は男気がある」
「あちらさんの隊長は風格が違うよ。また飲みっぷりもいい!」
「……悪かったね……」
「そう思うなら、今日はとことん飲みましょうぜ!」
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